「中原さんおはよお」

『宮くんおはよう。また教科書?』

「今日は部活のことで相談。俺そんなおっちょこちょいちゃうで?」

『でも前もそうだったじゃん。』





クスクスと笑う目の前の彼女。侑はニコニコと笑みを溢す。こんな調子で、ここ最近侑は一日に一度は治と角名のクラス、否菫の居るクラスに顔を出しその度に彼女に話かけていた。

ほんの二、三言話すくらいの短い会話。それでも緊張していた侑は、やっと手に汗を掻かなくなってくるくらいになって。そしてこの時間が毎日の楽しみにもなっている。





「菫〜、そろそろ移動しよ。」

『もうそんな時間?ゴメンね宮くん。』

「ええよええよ、体育頑張ってな。」

『ありがと。またね。』





教室の隅から彼女を呼ぶ声が聞こえ申し訳なさそうに下がった眉を見て侑はまたへらりと笑った。

"またね"

そんな一言がこんなにも嬉しいものだとは。きっと挨拶程度のそれなのだろうが、侑にとってはまた話しかけても良いのだと言われているようだ。

本当は治に用事なんて無い。部活のこと、なんて、それこそメッセージを送れば済む話。教科書や辞書を借りに来るのも全て菫に会う為の口実なのだから。





「おい邪魔や。」

「サム!ほんまかわええなあ」

「治先行ってるよ。」

「俺も行くって。クソツムどけ!」

「あとでどんなんやったか教えて。」

「何がやねん!」





体操着を抱えた角名がサラッと入口に立つ侑をかわして廊下に出ると、続こうとした治は捕まってしまう。どうにか話を聞いて欲しいらしいが治にとってはそれどころではない。早く着替えなければ授業に遅れてしまう。

我慢出来ず纏わりつく侑の尻に膝をかました治。ギャーギャーと痛みを訴える侑などお構いなしなその背中を見て、人手なしはどちらだと勝手にも溜息を吐いた侑だった。
06
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