「キャー!!」

「次コレやらん!?」

「待って火消える!次々!」





心もとない街頭だけの薄暗い河川敷。思っていたより買いすぎてしまったせいか、中々花火は無くならない。それでも終始楽し気に暴れる同級生達は、まさに青春を謳歌する高校生だ。





『痒い、噛まれた』

「うわ、それ見たらこっちまで痒なってきたわ。」

『ムヒ使う?』

「噛まれてへんのに何処に塗るん」





その輪には混ざらず、花火に飽きたのかジュースを飲みながら三谷と話す菫。左の二の腕を摩っている辺り、きっとそこを蚊に刺されてしまったのだろう。ケラケラと笑う三谷と談笑する菫を、ぼーっと見つめる侑。

ひとしきり騒いだ後の侑はいつも通りだった。それこそ、先程菫を見て胸が痛んだのが嘘のように。原因がわからないからこそモヤモヤする。彼女の顔を見るとそうなるのかと思いさりげなく菫を見つめているのだが、いつまで経ってもその痛みは訪れなくて。





「侑、見すぎだから。」

「カワイイ。」

「本人に言えば?」

「無理に決まっとるやろ…」





騒ぐことに夢中で侑に気付く者が居なかったのか、何か思い耽っているような顔をしていたからか。どちらかはわからないが、先程まで静かだった侑の隣に角名が座る。彼ももう満足したらしい。

誰とは言わないままの会話が少しくすぐったくもあり、もどかしい。

元々彼らほど関係が近くは無い。菫にとって侑は友人の兄弟、というくらいのポジションだろう。だから特別近くに居ないことが珍しいわけではなく、むしろそれがデフォルトで。角名や治の様に用事もなく理由もなく、隣に居るような関係ではない。

けれど何故か見えない溝があるように感じた。あの困ったような笑顔は、きっと自分を気遣ってくれていたから。それに胸が痛む理由なんて。





「俺、気ィ遣われんのめっちゃ嫌らしいわ。」

「は?」

「いや、こっちの話。」





ふっと浮かんだ感情の理由を口に出せば、角名が素っ頓狂な声を漏らす。まあ、無理もない。突拍子もない言葉なのだから。

アイスを買いに行くと盛り上がる同級生達を見つめながら、買い出しジャンケンに負けてしまった菫に侑はゆっくりと近付いた。
03
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