『へえ、やっぱすごいね。』
「去年は?来てたんちゃうん?」
『すぐ帰っちゃったから。ちゃんと見るのは初めてだよ。』
身に包んだのは稲荷崎のジャージ。少し緩く袖の余るそれは学校で使用している物だ。稲荷崎の生徒ということを証明するのと、一体感の為だとか言っていた三谷を思い出して菫はキョロキョロと周りを見渡した。
こういう大きな大会に来る度に思うのだが、こんな人混みにあの幼馴染は大丈夫なのだろうか。マスクは付けていると思うけれど、何せ混み具合が菫の地元とは全く違うのだから。
「なに?佐久早くん探してんの?」
『うん。人混み嫌いなのに毎回大丈夫かなって思っちゃうんだよね。』
「母か。」
三谷のツッコミは尤もだ。彼本人に何度か聞いたことがあるものの、毎度の如く嫌そうな顔をされるから。それに苦笑いを溢せば、三谷は大して気にしていないようでもう興味が他に移っていた。
それを確認して、菫はスマホを取り出す。着いた報告のメッセージを送った後はそのままポケットに戻す。
試合前はスマホを見ない佐久早。見ている時もあるだろうが返事が返ってきたことは一度も無く、試合後に電話がかかってくるのがもうお決まりだ。
『たぶん試合の後に会うんだけどなっちゃんも一緒に来ない?』
「え、行ってええの?選手と通路別やから会えへんやろ。」
『本当によく知ってるね…。』
「当たり前やん強豪校やで。何回応援来てるおもてんの。」
当たり前のことではあるが、選手や関係者が使用する通路に一般客は入れない。それは応援に来ている者も同じだ。そこに入るには通行証のようなものが必要で。普通バレー関係者でなければ知らないようなことであるのだが、一般生徒である三谷も知っていたようだ。流石強豪校である。
少し感心したような菫を見て得意げに鼻を鳴らした三谷は可愛らしいと、菫が笑う。
『聖臣が来てくれると思うから大丈夫。まあ選手側の通路に入るわけじゃないんだけどね。』
「なんて贅沢…!」
『え、何?』
「そんなん興奮してまうわ!かっこええ選手に会ったらどうしよう!?」
『ねえなっちゃん、聞いてた?関係者エリアに入るわけじゃないんだよ。』
「間近で見れるやんか!」
大会に来ていれば自ずと上手な選手、カッコ良い選手にも詳しくなるらしい。同じ学校の宮双子もきっとこういうことなのだろう。三谷を見て彼らが何故人気なのか、菫は理解した。
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