「ところでアレは誰やねん。」

「ハア?」

「今日サムが楽しそうに喋っとった女の子や。」

「そんなん山ほどおる。」

「嘘吐け殆ど無表情やろ!」





頭にこびりついて離れないあの映像。その日の帰り道、スマホを弄る治に唐突に質問を投げれば、返って来たのはまともに取り合う気のないふざけた言葉。面倒なことになる予感でもしたのだろう。治の勘は正しい。

侑が女子のことを聞くときは決まって興味がある時で、今回も無論そのつもりである。





「なんかほら、可愛らしい子ぉおったやん。」

「情報少なすぎるわ。」

「昼休みや昼休み。思い出せ。」





一瞬見えただけの印象ではあるが、ざっくりとアバウトにそう言った侑はいつになく真剣で。今までもこうして治に知っているかと問うてくることはあるが、今回はやけにしつこい。

もう既に面倒くさいと感じながら昼休みという単語にふと1人の顔が思い浮かんだ治は、スマホに滑らせていた指を止めて侑を見た。





「昼休みやったら……おったな、1人。」

「お!?誰や!なんて名前!?」

「中原菫。同じクラス。」

「中原菫…菫ちゃん、菫ちゃん言うんか。名前も可愛いやんけ…!」

「………キショ」





名前を聞き出せただけでこの笑顔。治の罵倒など聞こえていない侑は至極嬉しそうである。いつもより少しテンションが高く声まで大きくなった片割れの姿を見て、治はまたスマホに指を滑らせた。





「菫ちゃんな〜、菫ちゃんかあ〜。何好きなん?趣味は?」

「犬好きらしいで。」

「犬か!俺は別に好きちゃうけど!犬種なんかなあ!」

「柴犬やて。」

「なんや渋ッ!マルチーズとか好きそうやん!ちっこいし!いやーでもええな、そのギャップも。なあサム!」

「知らんわ。」





情報を与えたら与えたで面倒だ。それは今までに何度か経験したこと。少ししつこいのは自分が話していた所為なのだろうと、治は能天気に笑う片割れに呆れたように視線を送る。いつもなら目敏くもそれに気付く侑だが、今は脳内がお花畑になっているようで特に何を言われることもなかった。





「明日声掛けに行こぉ〜。ええよな?行ってええよな?」

「………。」

「あんま顔見えんかったけどあれは絶対可愛いで!俺の男の勘が言うとる!なあサム!」

「ッうっさいねん!耳元で叫ぶなや!」

「明日楽しみやなあ〜!」

「聞いとんのかクソツム!」
03
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