愛らしい背中に、さらりと流れる綺麗な髪。それから女性らしい身体のラインときゅっと引き締まった腰と足首。後ろ姿も完璧なその彼女は、見間違うはずもない侑の好きな人。





「菫ちゃん」

『侑くん。』





彼女の周りに友人が居ようが居まいがお構いなしに声をかければ、菫は振り返ってにこりと笑ってくれた。その笑い方がなんだか女らしく、少しドキッとしてしまうのは仕方のないこと。

隣にいた三谷が今更ながら視界に入ると、侑は睨まれていることなど全く気にした様子もなく菫の隣に並ぶ。自然と詰まった距離にトクンと胸が鳴れば、もう少し近付きたいという欲求がチラついて。ふわりと香った菫の匂いが侑の理性を激しく叩く。勿論、手を出すようなことは決してしないが。





「どこ行くん?購買?」

『うん。ジュース買いに行くとこ。侑くんも一緒に行く?』

「うん、お供さしてもらうわ。」

「ええんやで全然、ウチおるから帰ってもろても。」

「まあまあ、つれんこと言うなや。」





一緒に、なんて、自然に出てきた菫の言葉が嬉しくなんとも幸せで。侑が望んだ"遠慮しない関係"になっていることは確かだろう。1日のうち二言、三言交わすだけだった時間より何倍も長く一者に居られるこの状況が、その関係を表していて。現に菫を挟んで隣にいる三谷はここ最近かなり鋭い視線を投げてきている。

もっと言うなら2人が良いのだけれど。帰れ、と視線で訴えてきている三谷にそういう意味を含めて笑顔を返す。案の定隠すことなく眉間に皺を寄せた。





「今日なー体育の時おもろいことあってんけどな」

『銀島くんが転んだとかはナシね。』

「ちゃうって、俺そんなおもんない話せん。」

「十分おもんないで。ハイおわり。」

「いや今日サッカーやってんけどさ」

「(続けるんかよこの人タラシが…!)」





菫に向けて話しているのだ、三谷の意見は聞いていない。そのまま侑が話を続けると菫はコロコロと喉を鳴らして笑ってくれる。三谷には相変わらず睨まれているけれど。

こんな風に菫さえ笑ってくれれば、侑はそれで良いのだ。





「菫ちゃん何飲む?」

『うーん……なっちゃんは?』

「ミルクティー。」

『あ、じゃあ私レモンティーにする。』

「ほな俺も一緒にしよ。」

「やっぱウチも。」

『なんだ、みんな一緒じゃん。』





手に取った黄色いそれは、菫が持っているものと同じはずなのに小さく見えて。彼女の手が小さいのだとすぐにわかり侑の口元が緩む。自分より小さくて華奢な彼女を見れば見るほどに、近付きたいという欲求と同時に侑の中には庇護欲が湧き出た。
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