楽しい楽しい修学旅行が終わった。収穫しかなかったあの数日から一週間経ったが、未だに幸せに浸っている。
「無理や会いたい。」
「キモ」
「めっちゃ可愛ない?この菫ちゃん。何回見ても良い笑顔やん、女優顔負けやん。」
眺めているのは勿論あの時撮った写真。イルカを挟んでではあるが、その一枚に菫と自分が映っているという侑の努力の証である。たかが写真一枚をこんなに喜んだり大切に思ったことはない。
思えば菫に一目惚れというものしてから初めての感情ばかりで、時たま今まで自分は何をしていたのだろうと不思議になるくらいだ。それほどまでに侑の経験は全く役に立たない。
「で?次はどうしたらよろしいですか?」
「知らんがな。」
「とりあえずそのだらしない顔どうにかしたら?」
「やめろや、僻むなやおまえら。」
食堂で昼食をとった後、いつかのようにバンバンと侑が机を叩けば、興味無さげにスマホを見る治と角名が適当な返事を寄越して。銀島の苦笑いが視界の片隅に映るも侑からすればそれどころではない。
お互いの誤解を知り、一つ踏み込んだ仲になった。肩の力を抜いて会話することだって出来るようになってきて。侑自身も群がってくる女子達をしっかりと拒否し、最近では付き合いが悪いだのなんだの言われているくらいだ。もう菫しか見えない、そんな状況なのだけれど。
ここからどう進展させていけばよいか、侑には難しい問題が立ちはだかっている。
幸せオーラを飛ばしながらもその真剣な悩みを打ち明けたのだが、一連の流れが鬱陶しかったのか半目の治が黙ってスマホを侑に向けてくる。
その画面には。
「っなんやコレ、」
「中原とイルカ。ええ顔してるやろ。」
「はあ!?何やっとんねんクソ豚!可愛いくれ!」
「嫌。」
満面の笑みでピースをしている菫。恐らく侑との写真を撮った場所と全く同じ。それでも侑のスマホに居る菫とは別の表情。侑が立ち上がった瞬間、治はスマホをポケットへと片付けた。
あの時は見ぬフリをして2人きりの時間を作ってくれたらしく応援してくれるものだと思っていたのだが、相変わらずこの片割れは非協力的だった。
「ちなみに俺も持ってるよ。」
「くれ!消せ!」
「めっちゃええ笑顔しとるなあ。カワイイ」
「おい見んな銀!」
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