あの侑と、まさか2人でイルカショーを見ることになるなんて。クラスメイトが知ったらきっと羨ましいと血眼で睨まれることだろう。
動けば肩が触れてしまう距離に侑が座っているというのに未だ他人事のように感じるこの状況は暫く理解できそうにない。
プールに出てすぐ離れた侑の体温は、これでもかというくらい鮮明に覚えているのだけれど、どこか現実味を感じずフワフワとした意識のまま謝って来た侑に首を横に振って。きっとあの様子を傍から見ていたなら、漫画のような展開に心が躍っていただろう。ただそれがいざ自分のことになれば話は別。何より相手は侑だ。
そんな思考のまとまらないまま見ることになったイルカショーは勿論殆ど頭に残っておらず、形だけでもと撮っておいた写真はぶれていて。割と楽しみにしていたのだけれど、こんな状況だからかそれどころでは無くなってしまったのは仕方がないことと誰にでもなく心の中で言い訳をするのだった。
「終わってもうたな〜」
『楽しかったね。侑くん時間大丈夫なの?』
「俺は全然。なんも予定ない。」
『スケジュール決まってるでしょ。』
ショーが終わってアナウンスを聞きながら、スマホに視線を落とした侑に菫が聞く。彼と居るのは楽しい。けれどお互いにグループが別で、このままというわけにはいかないとそう聞いた菫。自分は大丈夫だと、言ってしまいそうになったことに少し驚きながら。まるで侑と一緒に居たいと思っているみたい、なんて。
侑に次の予定を聞かれ、菫は誤魔化すようにアナウンスで聞き取った内容を口にした。
「菫ちゃんは?何するん?」
『うーん、もうちょっと館内見る予定だけど…イルカと写真撮りたいかなって思ってる。』
「じゃあ俺と撮りに行こ。そこから合流でも遅ないやろ?」
けれどそんな適当な言葉に帰って来たのは、まさかの提案だった。これも侑の性格だから、と片付けられればどんなに良かったか。今まで見ていた侑の笑顔と全く同じ筈なのに、今の菫にはそうは映らなくて。ドキドキと逸る心音が邪魔だ。
『そうだね、せっかくだし。』
先程から夢見心地だった。なんなら今この瞬間だってフワフワしているけれど、彼の誘いを断るなんて選択肢は頭に無く。それどころかもう少し一緒に居られることに喜びを感じ、ぶわりと湧き出る感情に従って菫は首を縦に振った。
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