徐々に馴染んでくるクラスの雰囲気。初めこそ出身地を聞かれ大人っぽい、お淑やかなんて言われていた菫だが、今ではもうすっかり周りと同じように冗談を言い合うようになっていた。





「菫最近よーそれ見てるなあ。」

『可愛いでしょ?この子、最近の推し。』

「そういうのって普通アイドルとかちゃうん?」

『いやいやいや、アイドルだって。歴としたアイドルよこれは!』

「うるさ…!急にテンション上げんといてや!」





最近一緒に居ることが多い三谷夏実。菫はなっちゃんと呼んでいる。母親気質のある彼女は一緒に居て心地が良い。

そんな彼女が菫のスマホを覗き込んで適当な声を漏らすと、菫はそれの何倍もの熱量でスマホと共に返事をして。





『………ほら!今の!今の見た!?』

「可愛いなあ!もっかい見して!」

『ほらほら〜なっちゃんもハマってるじゃん〜』

「いやそら犬は可愛いて!」





画面に映るのは、赤毛の柴犬。名前はこまめ。菫のSNSは飼い犬を載せるアカウントばかりフォローしている所為で、いくらスクロールしても犬ばかりである。その中でのお気に入りがこのこまめらしい。

初めて聞く音だからなのか首を傾げるこまめを見せれば、興味無さそうにしていた三谷も興奮気味に食い付いた。

何度見ても飽きない。そう言いながら菫がしつこくその動画を再生していれば、何やらその盛り上がりを見た角名が首を傾げ声をかけてきた。





「何見てんの?」

「ああ角名!今菫の推し見てんねん!」

「推し?」

『そう、角名も見て!』





そうすれば2人揃って勢い良く振り返った為、角名は若干身を引く。それすらもお構いなしに菫がスマホを突き出せば、彼は素直にその動画を見て。

少しした後、可愛いねと言う。





『でしょ?私のイチオシ』

「名前何?俺もフォローしようかな。」

『是非!こまめで検索したら出てくると思う。』

「こまめ?」





ん?と、名前を聞いた瞬間、検索画面を出していた角名が止まる。私もしよかなーなんて三谷がスマホを持っているのを横目に菫は首を傾げる角名を見て。

急にどうしたのか。そんな菫からの視線を受け約10秒。あ、と声を漏らした後角名は動いた。





「それ、治もフォローしてるよ。」

『ホント!?』

「すっごい食いつき…。なんかよく見てる。」

『まじ!?え、うそめちゃくちゃ嬉しいんだけど!』





共感してくれる人が居るのか。途端に目が輝いた菫は角名が驚きでまた固まっている様にも目もくれず、スマホを片手に宮!なんて教室に戻って来たらしい治に駆け寄っていて。

勘違いかもしれないけど。そんな角名の一言は菫に届かず。少し置いて興奮気味な菫の声が聞こえ、どうやら角名の記憶は正しかったと開いていた口を閉ざした。





『ねえねえこの間のやつ見た?お留守番中のやつ』

「見たで。あれは語り継がなあかんやつやんな。」

『それな。ぬいぐるみ散らかすとかかわいすぎる。』

「あ、じゃあこれは?」

『もちろん見てるよ保存した!』

「流石やなやっぱわかっとるわ。」
04
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