『へえ、角名も兵庫出身じゃないんだね。』

「うん。やっぱ関西弁じゃない人と話すと落ち着く。」

『だよねわかる。』





美術の授業にて、同じグループになった角名倫太郎。治と同じバレー部であることはかなり有名で凄いプレイヤーというのも知っていた。勿論それは一方的にだったが。

初めましてとテンプレートを呟くと、ほんの少し表情を柔らかくした角名。どうやら彼も治と同じく激しく表情が変わるタイプではないらしい。同い年とは思えない落ち着きと空気感が独特だ。





「中原は東京か。どおりで。」

『え?何?』

「雰囲気が他の子と違うなあって思ってた。」

『そう?大人っぽい?』

「ギャルっぽい。」

『これでも大人しそうって言われるんだけど。』

「大人しそう、だろ?」





そうして揶揄ってくるように口角を上げて笑う角名を見て、落ち着いていると思ったことを撤回する菫。彼は案外揶揄ってくるタイプらしい。

白いキャンパスに少しずつ色を加えながらそれを口にすれば、角名は可笑しそうに笑った。





「中原こそ、案外話しやすいんだね。」

『話しにくそうに見えてたってこと?』

「あー、なんかこう、悪い意味じゃなくて。」





気分を害したわけではない。単純に言われたことの無い言葉だっただけに、思わず手を止めてしまって。ふと角名の方を見れば、彼は言葉を選んでいるようで。きょとんとした菫の顔を見て怒っているわけではないと察したらしく、角名もちらりと菫に視線をやる。





「雰囲気が不思議な感じだから、高嶺の花みたいな。」

『……角名ってモテるでしょ。』

「え?」

『なんでもない。そんなこと初めて言われたよ。』

「まあとにかく、話しにくそうってことじゃなくて話しかけていいのかわかんないってこと。」





角名の口からするりと出たそんな言葉。生きていて初めて言われたそれだが、きっとここが東京ではないからだろう。だからきっとそう感じたのだと少しだけどきりとした心臓を誤魔化す。

自然な流れがキザに感じさせない、そんな雰囲気だ。これは知らないところでモテるタイプ。それこそあの双子に負けず劣らず。

バレー部はモテる人が多いらしいと、菫は筆に色を乗せた。
03
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