「私ちょっと出てくるわ〜」
「嘘やんどこ!?どこ行くん!?」
「呼び出されてんねん。ほなあとでなあ」
「待って誰!?帰ってきたら全部喋れよ!?」
パタン。浮かれた様子のクラスメイトが部屋を出て行った。
1日目のスケジュールが終わり、風呂も入れ終えた部屋にて。各々スキンケアなりストレッチなりしながら話をしていると、1人が急に立ち上がって出て行ったのである。スマホを片手に。
出て行く間際の友人の表情は至極幸せそうでこのまま溶けてしまうのでは無いかと言うほど緩み切っていた。もう言わなくてもわかる、好きな人からだろう。
「絶対竹之内やんな。」
「いやそれな。今日ずっと一緒におったもん。」
『ご飯の時もイチャイチャしてたよね。』
「「それな」」
戻ってきたら良い報告が聞ける。想像しただけでこちらまでニヤついてしまって、菫含め残された3人は何から聞くかの会議に発展して。修学旅行といえば恋バナ。そんなお約束はいつの時代も変わらない。
消灯時間までまだ少しある為何かゲームをしようかという話になった時だった。
ブーッ
「あれ、菫のやつちゃう?」
「誰かから呼び出しやったりして〜」
『まさかー。』
「「あはははは」」
三谷と友人の冗談にケラケラと笑い、3人分の声が部屋に響いた。そんな甘い呼び出しなんて受ける予定も予感も全くない。
スマホの画面を見れば、案の定甘いお誘いなんかではなく馴染みのある名前からの通知に菫はふっと息を吐いた。
『幼馴染から』
「あ、佐久早くん?」
「え、あの佐久早?」
『そう。お土産何がいいっていう話してたの。』
"甘くないやつ"。そんなシンプル且つ色のないメッセージが見えて菫はそのアプリを開く。
そういえば彼の従兄弟にも買って行こうかと思いトークを開こうとした時だった。見慣れない文字とアイコンが上に浮上する。
〈遅くにごめんな、時間あったらちょっと喋らん?〉
登録はされていても、使用したことのない連絡先。ドクンと菫の心臓が鳴る。
一先ず佐久早に返事をしてから意を決して個人トークを開いた。
『ちょっと忘れ物したから下行ってくるね。』
「え、大浴場?」
「一緒に行こか?」
『ありがとう。大丈夫、すぐ戻ってくるし。』
「気ぃつけてな〜」
『はーい』
嫌に心臓がうるさい。それに気付かないフリをした菫は、三谷達には嘘を吐いて部屋を出た。
03