「こっからや!こっから巻き返すねん!」

「その意気やで侑!弱気なったらあかん!」

「ほな行ってくるわ!」

「ええからはよ歩けや。」





朝練並みの早起きで空港に集合し、飛行機で爆睡した侑は清々しく晴れた空の下で大きく両手を上にあげた。

本日から修学旅行である。





「…と、いうわけでまあ手違いでバスが一台来ません。」

「「「は?」」」

「くじ引きの結果、ウチのクラスがバス無しとなりました。」

「「「っはぁ!!?」」」





そうして告げられた新事実。出鼻を挫かれるとはまさにこのことである。すまんな!なんてケラケラ笑う担任にバス移動までも楽しみにしていたクラスメイト達からの苦情が殺到する。一体どうするつもりなのかと問えば、どうやら他クラスのバスに空きがある為分散して乗り込むことになるのだとか。

なんとも災難だと序盤から頭を抱える中、ハッと何か思いついたように顔をあげる侑。





「先生ェ俺1組がいい。1組しか無理。」

「なんや珍しく大人しいな侑。その辺はまあさっと決めて乗り込んでくれたらなんでもええけど。」

「よっしゃほな行ってくるわ!!また後でなお前ら!!」

「先生ェあかんて!アイツ下心丸出しやで!」

「まあそれぐらい修学旅行やしな。ほどほどにしとけよ。」

「待てコラ侑!勝手に決めんなや!」

「うちも1組がいい!宮双子揃うやん!」





荷物を持って走り出した侑。もちろん、目的はただ一つである。それを知っているクラスメイトの怒りの声が背後に響くが、侑は構うことなく1組が乗り込み始めたバスの方へ全力疾走だ。

少し前にまあ色々考えることはあったが、なんなら今でもしこりのようなものが自分の中に残っているが。今はこのチャンスをモノにするのが先決である。何より、菫に近付く為に。

物凄い勢いの侑に気付いた何人かがキョトンとしてこちらを見ているのを感じながら、侑は頭が飛び出た自分の片割れに飛びついた。





「サァム〜!バス一緒やで!!」

「っなんやねん暑苦しい。ツムなんでここおるん。」

「あれ、侑のクラスだったの?」

「何が?」

「バス、一台足りないって言ってたじゃん。2組がバラけることになったんだ。」





首に腕を回すと鬱陶しそうに払われた。角名の言葉を聞いてもさして興味が無いらしく荷物を下に乗せた治はバスに乗り込んで行く。その瞬間、治が小さな背中を押している様を見て侑も慌ててその後ろについた。





「菫ちゃんおはよう」

『おはよう。バス一緒なんだね。』

「ええってはよ乗れ。うしろつっかえてるから。」

「菫ちゃん席どこなん?」

『私なっちゃんの隣なんだけど、』

「菫!はよ!ポッキー食べよ!」





そのまま後ろへと進んでいく菫と治。最後尾で手を振っているのは恐らく三谷だろう。あそこは5人席なはず。治も菫の背中を押しながら歩いている辺り、彼らは横一列に座るつもりなのだろうか。

それに気が付いた侑は、もちろんそのまま彼らのど真ん中に座り込んだ。





「侑、座りたいから治の方ずれて。」

「はいどうぞ。」

「……いやだからずれろって。俺真ん中でいいから。」

「ええってええって、決まってるやろ?俺は余りもんやから。」

「なんでバレー部のでっかい図体揃ってんねん…!狭い侑くん前座りーや!」

「俺ここがいいもん。」

『まあまあ、せっかくだし楽しもうよなっちゃん。ね?』

「ちゃうねん菫…!そうじゃない…!」
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