東京から引っ越してきて一年と少し。中学卒業と共にやって来たこの土地には、もう慣れつつある。
周りが気さくな人ばかりだったおかげで特に友人に困ることもなく、楽しく過ごしてきた。勿論まだ方言には慣れないが。
そんな中原菫は、稲荷崎高校の二年生になった。
「中原さん?よろしくなあ!」
『うん、こちらこそよろしく。名前で呼んでくれると嬉しい。』
「じゃあ菫って呼ぶわ!東京の子ぉなんよな?ゆっこから聞いてんで!ウチも喋ってみたかってん〜!」
思っていたよりもさっぱりした性格の女の子が多く、クラス替え早々に何人か友人が出来て。今年も楽しくやれそうだと、早速趣味や気が合う友人も見つけられて滑り出しは好調だ。
しかし今年はそれだけではなく。なんと、有名なあの"宮ツインズ"の片割れも同じクラスだった。
「……あ、はじめまして」
『はじめまして。中原菫です。よろしくね。』
「宮治です。」
『じゃあ早速プリント、お願いします。』
「おん、こちらこそ。」
たまたま、本当にたまたま。隣の席になったその片割れ、宮治。初めて言葉を交わしたのは隣の人とプリントをチェックし合えと指示を出された英語の授業だった。顔は良く知っているし、銀髪に染められた彼が双子のどちらかなんてもう去年から耳にタコができるほど聞かされていた為わかってはいたが。
こうして近くで見ると、やはり騒がれるだけあってかなり整った顔立ちをしていて。
うわあ、なんて心の中で感嘆の声を漏らしながらプリントを受け取った。興味が無いと言えば嘘になるが、キャーキャーと騒ぐほどタイプがドンピシャだったわけではない為顔には出ていないだろう。
ただカッコ良いと騒がれているにも関わらず気取らない態度と、どちらかと言えば少し眠そうなその目と話し方はなんだか好感が持てた。
『……ふ』
「え?なんか間違っとった?」
『いや、眠かったんだなあって。』
「………それはアレや、見んかったことにしてくれ。」
男の子っぽい文字だなあなんて思いつつ黒板に書かれた答えと見比べて赤ペンを走らせていると、所々に残るミミズ文字に菫が声を漏らす。眠そうと思っていた目は元々ではなく本当に眠かったようだ。それを指摘されると彼は気まずそうに、恥ずかしそうに口を尖らせる。
雰囲気が雰囲気なだけに話しかけ辛そうだと感じていたが、どうやらそうではないらしい。
治に対して一気に警戒心が解けた菫が笑えば、治もそれに釣られて少しだけ口角を上げて。
そこから2人の関係はクラスメイトとして始まった。
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