08
早朝。全員の起床時間より少し前に起きた道香は、顔を洗って身支度を整える。そしてちょうど隣の部屋から大きなアラーム音がいくつも鳴り響いたところで、隣の部屋の扉を元気良く開けた。
『おはようございまあーす!』
「うおっ!?」
「あぁっ!」
「うるさい…」
扉を開けるなり無遠慮に部屋に入ったかと思えば、今度は完全に締め切られたカーテンを勢いよく開ける。薄暗かった部屋全体に朝日が差し込み、気持ちよさそうに寝ていた部員達が一瞬で眉間にシワを寄せた。
こんな荒っぽい道香の起こし方で、すんなりと起きるのは海と芝山のみ。もう何度も経験していると言うのに、黒尾と夜久は一度では起きない。
朝から眩しい太陽の光と、それ以上に眩しい道香の存在に山本が朝から菩薩顔で手を合わせるのもいつも通りだ。
『こら研磨〜、布団にくるまらないの』
「……」
『寝たフリもしない!』
「…起きるから、静かにして…」
『ダメだってば、けんちゃん!』
再び掛け布団を頭からかぶった孤爪に、道香がそう叫ぶ。 以前一度だけふざけて呼んだことがあるこの呼び方。道香はすこぶる嫌そうな顔をされたのをよく覚えており、こう呼べばすんなりと起きてくれるだろう、そう考えて母親のような演技を交えつつ孤爪の掛け布団を剥いだ。
…のが、どうやら間違いだったようだ。
「…………」
「………………」
『待ってなんでみんな布団に戻るの?』
「………」
『コラ!時間無いんだってば!』
布団を畳んでいた犬岡も、正座で道香を拝んでいた山本も、しっかりと起きていた福永さえ掛け布団を被りその場で無造作に倒れ込む。
先程起こしに来た時と同じ状況に戻った。
それを見て何事だと道香が憤慨するも、尚も彼らは起きる様子がなく。唯一身体を起こしているのは、布団を剥がれた孤爪のみ。 その孤爪が、じっと隣の膨らみを見る。
「…クロ、起きてるでしょ。」
「……」
『ねえもうほんとに!ご飯無くなるよ!私全部食べるからね!?いいんだよね!?』
「夜久くんも…」
「………」
小さな孤爪のその声は、どうやら隣の膨らみ達に聞こえていたらしい。そもそもこの2人は孤爪の所に道香が来た時点で起きていたのだが、敢えて様子を窺いつつ狸寝入りをしていたのだ。道香の声が大きくなってきた為に起きようとしたところ、"けんちゃん"という声が聞こえて再度目を瞑ったというわけである。
黒尾の布団から足が出て隣の夜久の布団が蹴られる。ドス、なんて鈍い音がするも、当然全員が起きない為怒っている道香には聞こえていない。
『なんでなの!?まだ2日目でしょ!』
「…道香」
『何?』
「さっきみたいに起こせばいいんじゃない」
『さっき?』
研磨グッジョブ。全員が心を一つにした瞬間だ。
しかし小首を傾げた道香が行ったのは、1人1人の布団を剥ぎ取るという行為だけだった。
『朝からホント疲れた。あ、直井さん〜朝のロードワーク5km増やしといてください!研磨以外』
「なんでだよ、なんでこうなるんだよ。」
「研磨クン?」
「俺の所為じゃない。」
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