85



「あーーー道香が乙女になったのにーーもっと見たかったー!」

『ちょっと英里声デカいって…!』

「でもすごく自然だったよ。言われなきゃわからないと思う。」

「ですよね!道香さんてっきり恥ずかしがっちゃうのかと」

『この会話の方が恥ずかしいよ。』





バーベキューも終わりに近くなる頃。自分達のところから片付けを始める彼女達の話題は、もっぱら道香の事だった。昨日の今日だ、恋愛話好きな女子がほおっておけるはずもない。

口を尖らせてゴミを回収する道香に、それを囲む宮ノ下、大滝、清水。その輪の後ろでにやりと笑うのは白福と雀田だ。怪しげなその笑いに、たまたま見ていた谷地が体を強張らせた。





「いやあ、うまく行ったね。」

「思ってたよりちょっと苦戦したけどね〜〜」

「そうなんだよね、もっと直接アピールしてたら今頃くっついてるのに。」

「ああやって牽制してるけど、実は奥手とか?」

「ウケる」





こっちにも考えがあると、鼻息を荒くした数日前。道香が黒尾を見る目が他と異なっていることなどとっくの昔に気付いていた2人。それを道香が違うと言い張るものだから、つい意地になり道香に西谷らをくっつけて黒尾をけしかけたのだ。

そんなこと知る由もない道香は、必死に話題を逸らしていた。

こうしてワイワイと騒ぐのは今年が最後。日差しが緩くなってきたおかげで温度の下がった風が彼女達の頬を撫でる。





「私も彼氏欲しいなー」

「わかる。道香と黒尾見てるとめっちゃ欲しくなるよね〜」

「確か4月もこの話しなかった?」

「したカモ〜」





清水達のからかいから逃れるように足早にその場を離れる道香と、その背に声をかけさりげなくゴミ袋を奪う黒尾の背を見つめゆっくりと茶を啜る雀田と白福。羨ましいような呆れているような、そんな生暖かい眼で座って茶を飲む2人は、まるで人生が2回目のような落ち着きと悟りがあったとのちに赤葦が語った。





「…あ、道香つまづいた可愛い」

「あの子ああ見えておっちょこちょいだからな…」

「黒尾の目、もう保護者だよね〜〜」

「過保護に拍車がかかりそう」

prev / next
[back]
×