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「ヘイヘイヘーイ道香ー!自主練行くぞー!」

『はーい』

「よし道香乗れ!」

『あかーし乗せてくれるって、よかったね。』

「俺に振らないでください。」





六日目の練習が終了。雑務を済ませた道香が体育館を覗くと、木兎と目が合い彼は駆け寄って道香の前にしゃがみ込む。よくもまあ、毎回飽きもせずに出来るものだ。

第3体育館に向かうべく自主練のメンバーである黒尾の姿を探すと、丁度御手洗いに行っていたらしく入口で遭遇した。

先を歩く木兎と赤葦の後を、2人肩を並べて歩く。





『今日で自主練も終わりだね。』

「そうだな。ツッキーもだいぶ成長したし。」

『赤葦が黒尾に似て来たって言ってたよ。』

「それツッキーが聞いたらめっちゃ嫌な顔されそう。」





普通だと、そう思う会話だが。殆ど毎日隣にいる道香からしてみれば、少しだけ違和感のあるもので。

お昼過ぎからあまり話していないこともあって、会話の輪から外れ1人ボーッと姿が道香の頭を過ぎる。





『黒尾、調子悪い?』

「ん?…いや、全然。」

『そう?ならいいんだけどね。なんかお昼くらいから元気無い感じしたから。』





隣に居る黒尾の顔を覗き込む道香。真っ直ぐとかち合った視線に、黒尾が一瞬ビクついた。
調子が悪いわけでは無いと聞き安心した道香は、そんな黒尾に何か言うでもなくスッと前を向く。





『黒尾が元気無いとなんか変な感じする。』

「…おー、元気だけが取り柄ってか?言うねぇ」

『いや取り柄は他人を煽ることでしょ?』

「それって実は貶してるだろ?」

『そんなぁ〜』





道香の横顔を盗み見る黒尾が、いつも通りの彼女に内心ホッと息を吐いた。どうせ、彼女には何か考えていることはバレている。その上で無理に聞こうとせず普段と変わらない調子で話すのだから、もう頭が上がらない。道香は、気まずさすら感じさせずいつも通りに笑う。

今自分にだけ向けられているその笑顔を見て、黒尾はグルグルと考えていた事を頭の隅に追いやった。

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