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『ツッキー上手くなったね〜』

「…アリガトウゴザイマス」

『もうちょっと嬉しそうな顔して?』





月島が自主練をすべく第3体育館に着くと、黒尾と並んで入ってきた道香がサポーターを付け直す月島にそう声をかけた。

真顔で棒読みの月島に、道香は笑う。





「今日も得点ですか。ご苦労様です。」

『道香さんって呼んでくれたら5点あげちゃうよ。』

「道香さん!!」

『うん、日向くんじゃなくてね。』





でも入れちゃう。そう笑ってフクロウチームに5点を加算した道香。まだ試合が始まってもいないのだが、黒尾に頭を掴まれいそいそと戻していた。

どうやら、灰羽以外の1年生には基本的に優しいようだ。

まだ来ていない木兎と赤葦を待ちながら道香がボールを出す。





「道香ちょっとスパイク打ってみて。」

『無理って言ってんじゃん。』

「マジ一回だけでいいから、一生のお願い。」

『それ聞くの10回超えてるんだけど。黒尾は何回生まれ変わってるの?』

「カワイーから見たーい!」

『ふざけんな。』





黒尾が道香に向かってトスを上げれば、彼女はボールをぽすっと受け止め抱えたまま黒尾を睨む。いつのまにか2人だけの世界に入ったかのようなやり取りを白い目で見た月島は、黒尾がよく"彼氏面するな"と言われている原因を理解した。





「なあなあ、月島」

「何」

「やっぱ黒尾さんと道香さんって付き合ってんのかな?」

「…興味ないんだけど。付き合ってないって主将が言ってたデショ」

「俺としてはノヤっさんと…」

「なんで僕に言うの」

「だって言ったら黒尾さんに怒られそうだし…。」





コソコソと近寄って来た日向に呆れた視線を向ける月島。コイツもその話か、と。西谷が絡んだことで今烏野内で話題になっているそれは、今日の朝も向かい合って朝食を食べる2人を見て山口が聞いて来たことだ。正直最近関わり始めたばかりの2人の関係など知るはずもないし、興味もない。

月島らしいそんな冷たい言葉だが、日向は聞いていないようで。だからなのか、滅多に言わないことが口から出る。





「………まあでも、付け入る隙なんて無いんじゃない?」

「…え?何、"リョウオモイ"ってこと!?」

「うるさい叫ぶなって。」

「なあ月島!」





日向がしつこくなり始めた時。不思議そうにこちらを向いた道香と目が合う。その奥に見える黒尾も同じような顔でこちらを見ていた所為で、月島の頭には先程勝手に出てしまった自分の言葉が響いた。

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