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「あれ?なんか道香さんTシャツデカくないっすか?」

『え?ああコレ黒尾の』

「エッ!!?もっもしかしてっ」

『ボトル洗ってたら濡れて、着替え無いから借りたの。』

「あ、なるほど…。」





身の丈より遥かに大きいTシャツとハーフパンツを身につけた道香は、山本の質問に何でも無いように答えた後海の指にテーピングをした。

未だ少し湿ったままの短い髪だが、何分この天気だ。少し待てば乾くだろう。それ故に自分と同じように髪の湿った灰羽を見てまた笑った道香。夜久に怒られたらしい彼の丸くなった背中を軽く叩いていた。





「男子高校生の夢ですね…」

「ああなるんスか…天使」

「あわよくば…いやいやいや、おこがましい」

「おいお前ら、心の声漏れてるぞ〜。」





両手を合わせて道香を拝む山本と、それに笑う道香を遠目から目を細めて見ている犬岡と芝山の背後から夜久がツッコミを入れる。

黒尾にとってはハーフパンツでも道香にとっては6分丈のそれを履き大きすぎるTシャツを中に入れ、パンツの腰の紐をぎゅっと固く結んだスタイルの道香。緩めの格好をしたボーイッシュ系の女子にも見えるが、パンツに入った黒尾の刺繍がそれを霞ませていて。

そしてそれを着せた張本人はというと。





「黒尾?生きてる?」

「無理だ、無理。可愛すぎて直視できん。」

「絶妙なサイズ感だもんな。丁度可愛い。」

「海サン?」

「ん?」





テーピングが終わり体育館の隅で道香を眺める黒尾の隣にやって来た海。今一つ感情が読めない笑顔だった為、彼が本気か冗談なのか黒尾にはわからず。

特別深い意味は無いのだが、黒尾にとってはかなり重要なことだ。そしてそれをわかっていてわざとこういうことを言うのが海である。

部員達の騒がしさをいつも通りだと何とも思っていない道香は、いつもより大きいTシャツの袖を肩まで捲って灰羽にボールを投げつけていた。





『はーいまだまだ行くよー!しっかり腰落としてー!』

「ちょっ道香さん!速い!速いっス!」

『木兎のスパイクとかこんなもんでしょ?スピード』

「いやそうですけど!」

「何アレ腕白ッ!細ッ!カワイッ!」

「煩悩だな。」

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