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『どっちがいい?』

「…右」

『ハイ当たり!酢昆布プレゼント』

「JKのオヤツが酢昆布ってヤバくね?」

『ヤバくない。ちなみにこっちは茎わかめでした〜』





道香臭い!そうクラスの女子から苦情を受けても尚笑顔の道香。そんな彼女から受け取った手のひらの酢昆布を、夜久はじっと見つめた。

1学期最後のお昼休み。明日は短縮授業となっており、それが終われば終業式だ。黒尾は今、暑いから教室から出たくないと連呼する道香の為に遣い走りされている。勿論自分の飲み物を買うことが目的ではあるが、ついでと乗っかった道香に高いぞ、と格好をつけて去っていったのだ。夜久が白い目で見ていたのはいつものこと。





『あ、黒尾おかえり!ありがと!』

「おー。お茶な。あとコレ押し間違ったからやるわ。」

『マジで!?苺ミルク!?自販機こんなのあったっけ?』

「入ってた。」





戻ってきた黒尾が頼まれていたペットボトルのお茶と、ピンク色のパッケージのジュースをトン、と道香の前に置く。彼女がよくコンビニで買ったと嬉しそうに飲んでいるものだ。小さいサイズのそれに道香が歓喜の声を上げた。

どうせ道香が好きな物だと思い出して買ったのだろう。押し間違えるわけがない。黒尾がそれを買う光景まで頭に浮かんだ夜久が様子を窺うように黒尾を見れば、案の定口角をキュッと上げた黒尾が道香の隣に座っていた。





『午後乗り切れるわー、たまらんこの甘さ』

「………え、ナニ今日酢昆布?」

『うん』

「食べ合わせ最悪だろ。」

「あと茎わかめな」

「どちにしろ不味いわ。」

『コレはちまちま大事に飲むんだって。』





余程好きなのだろう。両手で小さなパックジュースを握りしめ、封を開けずに机の隅に置く道香。午後の授業中、道香の机の片隅はピンク色のジュースに占領にされていた。





「天使か」

「………まあ、あれは可愛いと思った。」

「ハア?なんつった?」

「黒尾が話振ってきたんだろ。」

「あんなジュースで喜ぶとか何?どんだけ好きなの?」

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