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『久々だね、烏野!』

「チビちゃんは身長伸びてっかな」

『虎、あの坊主の同士に会えるじゃん、よかったね。』

「ドウシ?」

『似たような声出してたでしょ』




ハラリ。揺れた道香の前髪から覗く赤い額。先程夜久にデコピンをお見舞いされたあと、乱入した木兎によって喧嘩が終息した。まあ、木兎が登場した時点で全員が素に戻ったのだが。

しっかり頭も冷えた後、荷物を置いて猫又の指示で烏野を迎えに出向いている。





「お、あれじゃないか?」

『キタキタキタッ』

「道香チャン?腕叩きすぎなんですけど?(可愛すぎかよ、クソ)」





興奮を抑えきれず道香が黒尾の腕を何度も叩く。注意されても尚キラキラと輝く彼女の目に、黒尾が内心悶えながら呆れたように溜息を吐いた。

やって来た一台のバスから、元気良く出てくるのは山本の同士と呼ばれていた坊主頭の田中。彼は出てくるなり近くにあった鉄塔を見上げて感嘆の声を漏らす。





「オオっ!あれはっあれはもしや、スカイツリー!?」

「いや、あれは普通の鉄塔だね。」

『あははははは!』

「ぶっひゃひゃひゃひゃひゃひゃ」

「道香さんっ!お久しぶりっス!」

『お、おおう!西谷くん、久しぶり』





田中の発言と海の冷静なツッコミに黒尾と爆笑していれば、田中の影から素早く出てきた西谷が道香に直角に頭を下げた。
突然の登場に思いっきり身体が飛び跳ねた道香と、急に目が据わる黒尾。にこやかなまま海が後ろ手で黒尾の背を叩く。





「髪切ったんスね!似合ってます!」

『っふ、ありがとう。え?何、黒尾。』

「別に。」





照れ臭そうに笑った道香を、黒尾はジロリと横目で見下ろした。別に、なんて、嘘に決まっているだろう。そういう意味を込めて海がまた黒尾の背を叩くと、彼は誤魔化すように近くに来た烏野のキャプテンに声をかけた。





「今日からお願いしゃっス!」

『うん、こちらこそ。移動お疲れ、バスしんどかったでしょ?』

「いや、全然!寝てたんで!」

『あはっ、ほんとだほっぺた跡ついてるよ。』

「まじっスか?」

『うっそ〜』





黒尾が烏野の主将、澤村に声を掛けたことで、西谷は当然の如く道香の隣に肩を並べて。コミュ力お化けと称される道香と、誰に対しても臆さない西谷が絡めば元々知り合いだったかのような自然な会話が繰り広げられることになるのはもう誰もがわかっていることだろう。

道香の視界に清水が入ったことにより、彼女の興味は清水と新しいマネージャーに移るのだが。

それでも黒尾の鋭い視線は変わらない。

先程も道香は犬岡や芝山、福永達となんら変わりない会話をしているはずなのに、黒尾の目にはまた違った風に見えていた。





「おたくのリベロ、何なの?」

「いや、本当に桜井さんには悪いと思ってるよ。あいつちょっと強引な所あるから。」

「全くだな。もうマジで勘弁して欲しいわ。」

「こら黒尾、付き合ってないだろ。」

「…………」

「(あ、付き合ってないんだ)」

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