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『おはよう鉄朗、研磨。』

「おはよ」

「おはよう」





卒業式当日。駅で待ち合わせた二つの背中が、道香の声で振り向く。見慣れた寝ぐせとプリン頭。

こうして3人並んで学校へ向かうのも、今日が最後だ。





「いいの、俺居ても。」

『なんで?逆にダメなの?』

「こういう時は2人がいいんだと思ってたから。」

『せっかくなんだし研磨も一緒がいいじゃん。』

「そういう事デス。」

「……ならいいけど。」





昨日孤爪を誘った時、至極驚いた顔をされたのを覚えている。その理由が孤爪なりの気遣いだったと知ると、道香は嬉しそうに笑ってゲームに夢中な孤爪の肩に腕を回す。それを見て黒尾が反対から腕を回せば、孤爪は鬱陶しそうに身じろぎをした。





「これ全身写真撮ってほしくね?」

『え、わかる。学校着いたら誰か呼ぼうよ。』

「嫌だって…!ウザい離れて…!」

『まあまあ。いいじゃん今日くらい。』

「そうだぞ?これからは滅多に会えなくなんだぞ?」

「家近いじゃん…!」





その様子はまさに親戚の子をからかう叔父と叔母。夜久が見ていたら指を差して笑っているだろう。孤爪には甘かった道香も、ここ最近は黒尾に似てきている気がする。

仕返しと言わんばかりに孤爪がそう口に出すと、道香はピタリと動きを止めて孤爪から腕を離した。





「エ?道香チャン俺に似るのがそんなに嫌?ショックなんですけど?」

「…クロ、よく見て見なよ。」

「………あれ、道香顔真っ赤、」

『恥ずかしいからやめて!』





照れだ。黒尾に似ているなんて、言われたのが気恥ずかしかったのだろう。そして黒尾の言葉んび反してどことなく嬉しささえ感じる。

途端ににやにやと笑い始めた黒尾は、孤爪を離して道香の首に腕を回した。





「カッワイイなオマエは!」

『うっウザい!ねえ恥ずかしいって!』

「あー、おれ先行くから。一緒に居るの恥ずかしいし。」

『研磨!置いてくの!?一緒に行くって言ったじゃん!』

「可愛すぎて最早凶器だよな。チューしていい?」

「……バカップルなんかに付き合ってらんないよ」

『研磨ッ!』





白けた目で2人を一瞬だけ見た孤爪が通り過ぎる。黒尾に捕まる道香がいくら孤爪の名前を呼んでも、彼は一切振り向かず手元のゲーム機に視線を落としている。

これはもう駄目だと、顔が赤いまま道香は唇を近付けてくる黒尾の頬を抓った。



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