21
『黒尾、目瞑って。』
「…は」
『いいから早く。』
「今度はなんだ、またタピオカグミか?」
『違うって』
2限目が終わり、次の選択授業までの空き時間。夜久が教室を出た後、同じ授業をとっている道香と黒尾が縦に並んで席についている。眠そうに欠伸を零す黒尾に身体を横に向けている道香が唐突にそう言えば、黒尾はすんなりと目を閉じ左手を道香の方へ突き出した。
余談だが通常のクラスの授業では隣同士の席である。何かと手を回し席替えになると道香の席周辺の生徒とくじを交換している黒尾。今年に入って既に2回も裏で取引をした彼は、自慢げに道香の隣を陣取っていて。ちなみに言うとこの選択授業は他クラスも行動の為自力で引き当てた。
『はい、いいよ。食べて』
「………あ、美味い」
『でしょ!?期間限定のクランチチョコ〜ビターです〜』
「これは美味い。もう一個頂戴」
『ん』
昨日のタピオカは微妙だった。そう言いながら黒尾は差し出された袋からチョコを一粒取り出し口に放り込んだ。
昨日、朝練が終わりすぐに夜久の口にタピオカグミを押し込んだ道香。どうやらずっと気になっていたらしく、好奇心が先走りした様子だった。もちろんその微妙な味といきなりの出来事に夜久に制裁を受けた道香。自分は一粒だけ食べて残りを黒尾やらリエーフやらに食べさせたのだ。
最悪だ!そう叫ぶリエーフに笑う道香と、悪態を吐きながら食べていた黒尾はバレー部でちょっとした話題になっている。
『私黒尾が居るからいろんなお菓子買えるんだよねー』
「………あっぶねー、喜びかけたわ今。」
『あ、引っかかんなかった?』
「ただの残飯処理じゃねえか」
『色々チャレンジできて幸せ。』
「お前はな。」
道香に深い意味が無いことくらい黒尾も十分に理解している。この役目は何も黒尾だけではないことも。しかしそれでもこうやって面と向かって言われるのは慣れておらず、どうしてもにやけてしまいそうになって。
黒尾は頬杖を付いていた手で緩む口元を隠し、もう片方の空いた手でヘラヘラと笑う目の前の道香の頭を撫で付けた。
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