196



「オラ、いい加減泣き止め」

『無理。るいぜんぶっどんだ』

「山本ォ、道香笑わせろォ」

「俺には力不足すぎるお達し…!!」

「お前難しい言葉知ってんのな。」

『ふぐながありがど』

「道香、ちーんしなさい。ハイ、ちーん」





後ろの福永から差し出されたティッシュを受け取る道香。さっとそれを黒尾が奪うと、数枚道香の鼻に当てた。道香はそのまま黒尾に従ってズビズビと鳴らしていた鼻をかむ。

日向が去ったあと、最終セットを23対25で落としてしまった烏野は敗退。最後の烏野の格闘を自分のことのように眺めていた道香が号泣したというわけだ。
もちろん本来なら泣かずに我慢している場面だろうが、一度泣いてしまっている為涙腺が緩んでいるようで。最初こそ心配そうに見ていた黒尾も、優しい手つきは変わらないが最早親のようになっていた。





「ちょっと道香、ブサイクだよ」

『研磨もお友達って…』

「エッ」

「もうなんでも泣くジャン」





孤爪が呆れたように道香を見ると、視界に孤爪が入ったことでまた別のことが道香の脆い涙腺を刺激したようだ。目をいつもより大きく開いて驚いた孤爪が、どうすればわからないらしくポケットに入れていたレモン味の飴を差し出した。

コートでは烏野と鴎台が挨拶をしており、道香も無理矢理深呼吸で涙を押し込めて彼らの元へと急ぐ。





「道香なんで泣いてんだ(笑)」

『夜っ久ん笑わないでよ…』

「ほら道香、また目腫れるからこすらない。」

『はいママ』





通路で待っていた夜久が涙に濡れる道香の顔を見て吹き出す辺り、もう道香の泣き顔には慣れてしまったらしい。泣いている理由が理由だからかもしれないが。

からかってくる夜久に不満気な顔を向けながらコートに着くと、近くに居た木兎が神妙な面持ちで黒尾に並ぶ。夜久とは違って道香の赤い目を見るなり、木兎はキュッと唇を結んだまま軽く道香の背中を叩いた。





『え、ねえ木兎が大人すぎて泣きそう…』

「マジで道香の涙腺どうなってんだよ(笑)」

『だから夜久笑わないでって』

「お?泣くか?胸貸してやるぞ!」

「それは話変わってくるわ。オイ近付くな。」





いつもと変わらないやりとりが道香の胸をじんわりと温める。こうしてバレーの舞台で戯れるのは、きっと今日が最後なのだろう。

両手を道香に向かって広げる木兎を黒尾が叩くのを見ながら、こちらにやって来た烏野のメンバーを視界に捉えまた深く息を吸った。

prev / next
[back]
×