190



「目ぇパンパンだな〜」

『夜っ久んデリカシーって知ってる?』

「黒尾みたいな話し方すんな腹立つ。」

「はい道香、コレで冷やして。」

『海様…!好き…!!』

「ハァ???」





昼食を終え、試合の進行具合を確認するべく一旦会場に戻る道香達。梟谷と烏野の試合どちらが先になるのか。そんな話をしながら歩いていると、どうやらCコートの進みが早く梟谷が先になりそうだ。





「Cコート早く終わりそうだな。」

「だな。」

『井闥山だもんね。』





海から受け取った保冷剤をタオルで巻き、熱を持った目に当てる道香。黒尾は道香が転ばないかと横目で確認していると、突然よく見知った顔が視界に入り声を漏らす。相手も黒尾と同じように短く声を漏らし、それに気付いた道香達も黒尾の視線の方へ顔を向けた。

通りがかったのは、戸美の大将だった。その隣に見覚えのある女の子が見え、黒尾越しに顔を覗かせた道香がこそこそと話すその人物に声をかける。





「聞こえてんスけど」

『ミカちゃんじゃん!』

「?…あ!道香ちゃん!」

「オイオイ待て待て、いつの間に知り合った?」

『代表決定戦の時トイレで会った』

「ミ、ミカちゃんちょっといい?」

「いーよいーよ!私お土産見てくるね。」





久々に感じたコミュ力お化けに黒尾が冷静にツッコむと、道香と彼女を関わらせるのは危険だと判断したのか、少し慌てたように大将がそれを遮って。にこやかに手を振った彼女に、道香は笑顔で持っていた保冷剤ごと手を振り返した。

そして彼女が居なくなった瞬間、大将の本性が現れる。





「敗者(コッチ)側へようこそ」

「おい誰か早くこいつの顔撮れ!ミカチャンに見せるんだ!!」

『ハイチーズ』

「撮るなネコ女!」





極悪人の顔だ。瞬時にスマホを取りだした道香が撮影するも、勢いが良くブレブレだった。まともに撮れている写真は無い。残念だと道香がこぼすと、大将は分かりやすく安堵の溜息を吐く。





「まああんま落ち込む事無えよ。1チーム以外全〜〜〜員漏れなく負けるんだ。タイミングが違うだけ。大した事じゃない。まさか本気で優勝できるなんて思ってなかっただろ?」





皮肉。間違いなくそうだが、なんだか大将の雰囲気が変わった為に道香も茶々は入れず口を閉ざす。

黒尾も黒尾で分かりやすい大将のアオリにはいつも乗ってしまうのに、"終わった"今は何か思うところがあるのだろう。意外にも冷静に返ってきた黒尾の言葉に大将が眉間に皺を寄せて悪態を吐く。





「…本当に、優勝できるかできないかなんて関係ない。負けるからやらないなんて事は無いし、勝てるからやるわけじゃない。わかってるわクソガッ!」

「大将くんお口お口。録音すっぞ。」

「勝手にアオっといて何を勝手にキレてんだ。」

『結局励ましてくれたの?』





少し重く感じたその言葉に道香が真剣な眼差しを向けるのも束の間。いつもの調子に戻った大将に道香達が笑う。それに反撃するように大将が4人に舌を出し中指を立てて見せると、背後から彼女が現れ慌てたように中指を隠した。





「うっせバーカバーカ!励ましてねえよ!」

「もういいの?」

「!!!」

『フッ』

「あ!うん!!いつから居たの!?お昼何食べよっか!!?」





急にいい彼氏に戻った大将はひどく面白い。あんな調子では彼女もきっと気が付いているはず。こちらに手を振る彼女を見て道香は満面の笑みで腕を振り返した。





「なんだあいつ」

「面白いやつだ。」

『今度ミカちゃんに写真見せよ』

「ふふ」

prev / next
[back]
×