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"いつもなら"決まる感覚。それをことごとく拾っていくのが彼らの武器だ。きっと観客も実況も、観ている者皆が烏野に挑む音駒、なんて図を念頭に置いているだろう。

だからこそ、第一セットを先取した彼らに、周りは驚きの目を向けている。





『うん、みんなイイ感じだよ。』

「え?俺ですか?」

『リエーフはそこそこ。』

「なんで!」





お疲れ様。そう言いながらドリンクとタオルを渡す道香と犬岡、芝山。いつも通りの調子に灰羽が跳ねると、道香は抑揚のない声で返事をする。

試合だと大体一セット目をとられ、終盤になるにつれ守備が完成し勝利する音駒。ところが今回は違った。序盤からいつもよりアグレッシブに動く孤爪が原因だろう。そして相手が相手だけに、ほんの少し、いつもより皆の熱が高い。

GW合宿の、最初の練習試合が頭の片隅に浮かんだ。





『今日は黒尾活躍してるね。いつもあんま目立たないのに。』

「オイ?」

「月島が居るからじゃねーの?大好きじゃん」

「夜っ久ん言い方な?」

『マジここで勝たなきゃ師匠のメンツ丸潰れだしね〜』

「プレッシャーかけんのやめてクダサイ。」





ずっと勝ち越してきた。まだチームとして未完成だった烏野からすれば、音駒はどうしても倒したい相手だろう。それと同時に、音駒にとって烏野は負けたくない相手。

練習試合のようなワクワクする気持ちと、緊張が混じるこの感覚は嫌いではない。そんなことを考えていた道香の頭に過ると、それに勘づいたらしい黒尾がにやりと口角を上げた。





「道香もそんな顔すんだな。」

『そんな顔って?』

「負けたくねえって、メラメラ燃えてる顔。」

『なにそれ、そんな顔してる?』

「してるしてる。」





自分でも意識していなかっただけに、道香が咄嗟に顔の筋肉に力を入れると。きゅっと表情の引き締まった彼女を見てまた笑う黒尾。なんだか気の抜けそうな雰囲気だが、コート入れ替えのブザーが鳴り現実に引き戻される。

道香が黒尾越しにキレた表情の夜久をとらえ慌てて荷物を肩にかけると、その話は中断されて。道香も直井の後を追って移動し始めた時、ふわりと柔らかい声が耳を撫でた。





「いいんじゃねーの、カワイイよ。」

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