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『……みんな上手くなったなあ』

「ほっほっほっ。それはウチも然り、相手も然り、だな。」





試合開始から怒涛のラリーが重なる。音駒の守備力はもちろんだが、何より烏野の成長ぶりにはバレー未経験の道香でも舌を巻く程だ。
どれだけ練習したのだろうか。そして、どれほど壁にぶつかったのだろうか。

道香達とて同じなのだが、チームのそれを1番近くで見てきたからこそ烏野の背後に見えた"努力"にじんわりと胸が熱くなって。





『…監督、直井さん、どうしましょう。私なんだか泣きそうです。』

「道香がしおらいとよくないことが起こりそうだ。」

『私でも傷つくことあるんですからね?』





決まったスパイクを見て、道香はペンを動かす。ドキドキとワクワクと、そしてこみ上げる熱が口からこぼれ落ちた。同じくベンチに座る猫又の顔が視界に入ると、その穏やかでいて楽しそうな表情が胸に刺さる。

きっとどのコートよりもやる気と熱に満ちているそれを目にしながらも、勝敗以外の感情が絡んだ道香の頭はそう簡単に落ち着けないようだ。

お世話になった監督の、古い友人のチームとの公式戦。自分達のものだけではない熱。





『親の気持ちってこんな感じなんですか?』

「バカ、こんなもんじゃないぞ。」

「なんだ、道香にとってあいつらは子供か?アイツも報われねえなあ!」

『監督!』





暖かい視線が道香に向く。ここ最近ストレートにそういういじりを口にするようになった猫又の視線は優しい。ほんのり赤くなっているであろう頬を誤魔化すように道香が咳払いをすれば、3人の意識と視線はコート内に戻って。

そしてそのコートの中では。たった今澤村のスパイクをシャットした黒尾が、ちょうど道香に向かって満面の笑みで手を上げていた。





「道香見たかー!」

『ナイスブロック〜』

「顔真っ赤だぞ。」

「こりゃあ全然子供じゃねえなあ!」

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