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全国大会の折り返し地点にやってきた。残っている高校はどこも強豪と言えるだろう。観客の数も、初日より増えたメディアの数も、何度見ても慣れない。





『…………ねえ、知ってた?』

「ん?」

『今日、下の学年の子達も応援に来てくれてるんだって。』





昨日は道香達のクラスメイトのみだった。真剣な面持ちの道香がそう呟くと、拍子抜け、と言わんばかりに夜久が目をしらけさせる。海が嬉しいなとにこやかに笑うと、キメ顔で道香が彼らを振り返る。





『ここでカッコ良いとこ見せれば………マネやりたい子が増えるカモ。』

「「!!」」





ぴくりと、山本と灰羽の2人が反応を見せた。先程まで緊張すると騒いでいた2人だ。ものの数秒でテンションが上がった彼らに、道香はにやりと口角を上げた。





『モチベーションは最高です、ボス』

「見事なドヤ顔だな。」

「なんか腹立つわー」

「ボスのテンションも上げてくんない?」





元気2人組のテンションが上がれば、おのずとチーム内の雰囲気も良くなる。それをわかっているからこそ、道香はわざとそんなことを言ったのだ。もちろんそれでマネージャーが本当に入ってくるかどうかはわからないが。

モテたい、なんて握り拳を作って意を決したように客席を見上げる灰羽に、芝山が苦笑いをこぼす。いつも通り過ぎるやり取りに気が抜けてしまいそうだが、余計な力が抜けてリラックスできているのも確かだ。

ジャージを脱いだ黒尾がドヤ顔の道香の前に立ち手を差し出すと、彼女は一瞬ためらった後ぎゅっとその手を握った。





『任せたよ、キャプテン。』

「……ッハ!」

「オイオイこんなとこでいちゃつくなバカ!手ェ離せ!」

「道香さん俺も!俺も握ってください!」

「僕も…いやいやそんなおこがましい、」





花が咲いたような、眩しい道香の笑みを真正面から受けた黒尾が空いている片手で手を顔を覆って小さくなる。それに瞬時に反応した夜久が目を吊り上げて黒尾の尻を蹴り上げた。しかしそれでも道香の手は離さない。

一気に視線が集まり周りに部員達が寄ってき始めたのを見て、道香は黒尾の手を離し今度は夜久と海の手を取りぎゅっと握る。





『怪我しませんように。』

「んなッ!」

「…もっと他に言うことないのかよ。」

「でもこれなら怪我しなさそうだな。」

「道香チャン?それはボスにだけのヤツだろ?」

『リエーフと芝山、おいで』





口元を引くつかせた黒尾に頭を掴まれながら、近くに居た後輩達を振り返る道香。手招きをすれば素直に駆け寄ってきた2人の手をまた同じように握って。その瞬間、芝山の後ろに部員達がずらりと列を作り大人しく並んだ。





「……何アレ、握手会?」

「羨ましい!道香さんと握手してえ!……っは!龍!」

「……おうノヤッさん、俺も今考えてた。」

「「潔子さんも握手会やりませんか!」」

「やりません。」

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