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また音駒(うち)とやりたいなら、公式戦で。

何度も試合を申し込んでくる日向に、猫又がそう笑った。





『今日はさすがの黒尾もお疲れか。』

「ヤッベェわ…チビちゃんスタミナおばけだろ」

『見てる私でもしんどいもん。汗冷やさないでね』

「おー、ありがとな。道香ジャージは?」

『着るよー』





座り込んで汗を拭く黒尾に、預かっていたジャージを渡して自分も真っ赤なそれを羽織る道香。ちらほらとネットを外したりし始めた部員達が視界に入ると、道香が急にキョロキョロと体育館を見回す。





「?どうした?」

『潔子ちゃん探してる。連絡先聞きたいなーって。』

「お前はコミュ力おばけだな。」

『貴重なマネ仲間だよ?美人だよ?逃すわけないじゃん。あ、菅原くーん!』

「……は、お前」

「桜井さん?」





黒尾が間抜けな声を出して道香に手を伸ばすも、道香は菅原に大きく手を振って駆け寄った為一歩届かず。空を切った手をそのままに黒尾が固まっていると、どうやら菅原に清水の居場所を聞いたらしい道香がまたパタパタと戻ってきてカゴを持ち上げた。





『私ボトル洗ってくるわ!潔子ちゃんも今洗いに行ってるみたいだから。』

「お、おう。……いやそうじゃなくてお前」

『黒尾も片付けしなよ。主将だからってサボってたら私が代わりに主将やるからね!』





早く行かなければ清水が水道を離れてしまうかもしれない。せっかくのチャンスを逃すまいと捲し立てるようにそう言った道香。黒尾の声などもちろん届いておらず、その場に残されたのはほんのり香る道香の匂いだけだった。





「何サボってんだ働け!」

「痛っ!?夜っ久んヒドイ!」

「キモい呼び方すんな。道香は?」

「ボトル洗いに行ったぞ。あっちのマネと仲良くなりたいらしいわ。」





呆然とする黒尾の背後から蹴りを入れた夜久が、孤爪同様にボールを拾いながら黒尾の言葉を聞く。
烏野のリベロである西谷に絡まれた後だからか、夜久の表情は少しだけ嬉しそうで。そんな微妙な反応に気付いてはいるが、黒尾は道香の様子が気になるようで片付けと称して水道に近付こうとするのだった。





「そういやあっちのリベロがさあ。」

「んー?」

「道香の居場所聞いてきてたぞ。」

「っは」

「菅原くんだっけ?が教えてたみたいなんだけど」

「それを先に言え!」

「アホか、邪魔すんなって!」

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