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早流川高校との試合に、烏野の勝利。かなり濃密で成長が見えた試合があった今日。肉体的にも精神的にも疲労していたのは選手たちだけではなく、神経を張り巡らせていた道香も同じだった。
「寝んの?」
『いや、全然。全然眠くない。』
…筈だったのだが。バスに乗り込み、平然と隣にやってきた黒尾に感じていた疲れも何もかもが吹っ飛ぶ。先程あんなことを言われたばかりだが、そうなってしまうのも無理はない。 今しがた眠そうな目をしていた道香が急に眼をカッと開いて勢いよく首を横に振ったのを見て、黒尾は少しだけ驚いた後頬杖をついた手で口元を覆う。
気まずいと感じているのは、道香だけではなようだ。
半分勢いではあるが、黒尾も言ったことを後悔しているわけではなかった。先程のように何もなかったかのように笑ってくれれば、自分とていつもの"彼氏面"で済ませられたのだが、こうも緊張されればこちらにまでうつるというもの。
意識してくれているという事実に、緩んでしまう口元を必死に隠す。
「……」
『………』
「…………」
『…な、なんか喋ってよ』
「あ?」
『黒尾静かすぎ、変』
それはお互い様だろう。喉まで出かかった言葉を、ぐっと飲み込む黒尾。特に気にするほどの沈黙でもなかったのだが、ちらりと盗み見た隣の道香は口をへの字に曲げて少し体を窓際に引き横目でこちらを見ている。
彼女なりにいつも通りに接しようと努力しているのだろうか。ドクンと、心臓の音が大きく響く。
「そんな警戒すんなって」
『…は、』
「取って食いやしねーっての。」
『なっ…はァッ!?』
「オイうるさいぞ道香〜」
冗談なのか、本気なのか。下から道香を見上げるように見た黒尾がにやりと笑う。 大きな手で覆われた口元から覗く意地悪く上がった口角に、道香は顔を真っ赤に染めて。考えていたこととは全く別の言葉が、思わぬタイミングで振ってきた。驚きに声を漏らせば、前方から直井の注意が飛んでくるも道香にとって今はそれどころではない。
バッと、狭い空間でできるだけ黒尾から距離をとるように窓に背をつく。
『意味わかんないんだけど…!』
「アレ?そう考えてたんじゃねーの?」
『そんなわけないしょバカなの!?』
「ガッチガチに緊張してたからてっきりそうかと。」
「うるせえぞそこのバカ2人」
喉を鳴らして笑う黒尾の、意地の悪い言葉。一瞬眉間に皺を寄せた道香がそう怒鳴るように言うも、黒尾はまた揶揄うように笑う。
通路を挟んだ隣から夜久の咎める声が聞こえると、はぁっとわざとらしく大きな溜息を吐いた道香が再び座席の背もたれに背を預けた。
「今日のメシなんかな」
『…私唐揚げがいい。』
「サカナだろ。」
『えー?だって全国大会だよ?勝ったんだよ?お肉でしょ。』
黒尾のからかいで拍子抜けしたのか、脱力、といった様子でぼーっとしながら口を開く道香。意識するだけ無駄だと悟ったのだろうか。
完全に緊張が解けたらしい道香は、やがて襲ってきた眠気に逆らうことなく黒尾の肩に頭を預けて眠った。
「…夜っ久ん、タスケテ」
「爆ぜろ」
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