152
「ほっほっほ」
『いいですね、今日』
「緊張もしてないみたいだしな。」
いつもと違うコートではあるが、調整しつつ対応し初戦は2-0で勝ちあがることができた音駒。特に調子を崩される場面もなく、道香も直井の隣でニコニコと笑う。
コートから戻ってきた彼らと喜びを分かち合って、財布を握りしめた道香は即座に荷物を後輩に預け立ち上がった。
『ちょっと買い物してくる。』
「は?」
『ちょっとだけ時間あるの。直井さんには許可とってるから。』
「抜かりないな…」
『走行こ!』
「待て待て、俺も行く。お前さっきナンパされてたろ。」
『走がいるから大丈夫だって。腕組めばいいんでしょ?』
「バァッ……カ!」
心配性な親と反抗期の娘。そんなやりとりを生暖かい目で見る部員たち。腕を組むという予想外のワードが道香の口から出たところで、目をカッと開いた黒尾が道香の頭を掴む。結局犬岡が留守番を名乗り出た為に、道香は黒尾と売店に向かうのだった。
『烏野も一回戦突破したみたいだね。』
「らしいな。明日稲荷崎だろ?」
『その名前聞いただけでも胃が痛いんだけど…。』
「IH準優勝だからな。」
『私らも油断できないけどね〜……エースの心得Tシャツ下さい!Mで!』
「は?Sでいいだろ?」
『寝巻で着るかもじゃん』
「寝巻…」
『……ちょっと待って何想像してんの?キモイよ』
売店でお目当てのTシャツを受け取り、満足気な道香を見て鼻の下を伸ばす黒尾。瞬間きゅっと目を吊り上げた道香がやめろと黒尾の背中を叩くも、締まりのない顔は変わらず。しかしそんな顔でも、道香を壁際に誘導してエスコートするように歩くものだから道香もそれ以上は何も言わなかった。
道香の歩調で戻ろうとした時、前からやってきたオレンジ色の髪の毛に黒尾が反応する。
「…お?チビチャン。」
『え?…あ、日向君と山口君』
「黒尾さん!道香さん!」
「お疲れ様です!」
「オツカレ〜」
オレンジ色こと日向と、隣に居た山口が勢いよく頭を下げこちらにやってくる。道香同様財布を握りしめているところを見ると、どうやら彼らも売店に用事があるらしい。
『一回戦突破おめでとう。うちの試合も見に来てくれてたよね?』
「エッあっハイ!イイエ!」
「どっち…?」
「まあ明日も頑張れな。」
「「あザース!」」
ガチガチに緊張した日向にふっと笑いをこぼし、道香と黒尾は2人に手を振って踵を返す。頑張るのは自分達もだと軽く黒尾の腕を叩く道香と、その頭を乱雑に撫で揶揄うように笑う黒尾。
戯れているようなそんな2人の背中を見た日向と山口は、彼らの姿が小さくなった後顔を見合わせた。
「やっぱ付き合ってるよね?」
「っだよな!?山口もそう思うよな!?月島の奴なんも教えてくれなくてさー!」
「いや、ツッキーはそういうの興味なさそう…。」
「でもそうなるとやっぱりノヤッさんが…」
prev / next
[back]
|
|