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「ほっほっほ」

『いいですね、今日』

「緊張もしてないみたいだしな。」





いつもと違うコートではあるが、調整しつつ対応し初戦は2-0で勝ちあがることができた音駒。特に調子を崩される場面もなく、道香も直井の隣でニコニコと笑う。

コートから戻ってきた彼らと喜びを分かち合って、財布を握りしめた道香は即座に荷物を後輩に預け立ち上がった。





『ちょっと買い物してくる。』

「は?」

『ちょっとだけ時間あるの。直井さんには許可とってるから。』

「抜かりないな…」

『走行こ!』

「待て待て、俺も行く。お前さっきナンパされてたろ。」

『走がいるから大丈夫だって。腕組めばいいんでしょ?』

「バァッ……カ!」





心配性な親と反抗期の娘。そんなやりとりを生暖かい目で見る部員たち。腕を組むという予想外のワードが道香の口から出たところで、目をカッと開いた黒尾が道香の頭を掴む。結局犬岡が留守番を名乗り出た為に、道香は黒尾と売店に向かうのだった。





『烏野も一回戦突破したみたいだね。』

「らしいな。明日稲荷崎だろ?」

『その名前聞いただけでも胃が痛いんだけど…。』

「IH準優勝だからな。」

『私らも油断できないけどね〜……エースの心得Tシャツ下さい!Mで!』

「は?Sでいいだろ?」

『寝巻で着るかもじゃん』

「寝巻…」

『……ちょっと待って何想像してんの?キモイよ』





売店でお目当てのTシャツを受け取り、満足気な道香を見て鼻の下を伸ばす黒尾。瞬間きゅっと目を吊り上げた道香がやめろと黒尾の背中を叩くも、締まりのない顔は変わらず。しかしそんな顔でも、道香を壁際に誘導してエスコートするように歩くものだから道香もそれ以上は何も言わなかった。

道香の歩調で戻ろうとした時、前からやってきたオレンジ色の髪の毛に黒尾が反応する。





「…お?チビチャン。」

『え?…あ、日向君と山口君』

「黒尾さん!道香さん!」

「お疲れ様です!」

「オツカレ〜」





オレンジ色こと日向と、隣に居た山口が勢いよく頭を下げこちらにやってくる。道香同様財布を握りしめているところを見ると、どうやら彼らも売店に用事があるらしい。





『一回戦突破おめでとう。うちの試合も見に来てくれてたよね?』

「エッあっハイ!イイエ!」

「どっち…?」

「まあ明日も頑張れな。」

「「あザース!」」





ガチガチに緊張した日向にふっと笑いをこぼし、道香と黒尾は2人に手を振って踵を返す。頑張るのは自分達もだと軽く黒尾の腕を叩く道香と、その頭を乱雑に撫で揶揄うように笑う黒尾。

戯れているようなそんな2人の背中を見た日向と山口は、彼らの姿が小さくなった後顔を見合わせた。





「やっぱ付き合ってるよね?」

「っだよな!?山口もそう思うよな!?月島の奴なんも教えてくれなくてさー!」

「いや、ツッキーはそういうの興味なさそう…。」

「でもそうなるとやっぱりノヤッさんが…」

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