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『ヤバイヤバイめっちゃ緊張してきたどうしよう口から心臓出そう…!』

「大丈夫っスよ道香さん!俺が居ます!」

『……ヤバイ余計に不安になってきた』

「ちょっと道香ジャージ引っ張んないで…』




うるさい。そう冷めた目で自身の服を掴む道香を見る孤爪。この場に居る誰よりも冷静で且つ他人事のような彼は、例の如く緊張していないらしい。

少し離れた所でこれまたガチガチの黒尾と澤村が話しているのを視界の端に捉えながら、孤爪が口を開く。





「…さっきは緊張してなかったでしょ。」

『さっきはね!!!』

「うるさっ…!ちょっと落ち着きなよ」

『研磨はなんでそんなに落ち着いてられるの?さっき佐久早見たでしょ?全国だよ?ここ全国なんだよ?』

「代表決定戦の時も居たよ。」

『ねえアレ稲荷崎だよね!?もうマジで無理なんだけど!』





孤爪の髪をサラサラとすき、その手で近くに居た福永を捕まえ肩を揺らす道香。いつもより落ち着きがなく子供じみたその行動は、彼らの緊張を和らげる為なのか本当に心底緊張しているのか。まあ後者だろうが。

いつもストッパーになっている海も道香を怒る夜久も居ないこの状況で、隣の灰羽が使い物にならないことは明らかで。孤爪は深く溜息を吐いた。





『こんな時くらいなんか言ってよ福永ァ!』

「…やっ…やり過ギドフトエスキー…」

『何それ意味わかんない!ねえ球彦今のわかった!?』

「いえ、わかりませんでした。」

「道香さんたかいたかいしましょうか?」

「夜久くん何処行ったの…」





全く話を聞かない道香に隠すことなくもう一度溜息を吐く孤爪。面倒臭いと全面的に出してくる孤爪などもちろん道香の視界には入っておらず、ひたすらに後輩に絡む彼女はとても先輩には見えない。

もうなんでもいい。そんな様子で諦めモードに入った孤爪は、道香にだけ聞こえるような小さい声で呟いた。





「クロに手でも握ってもらえば?少しは落ち着くんじゃない」

『…っ〜〜〜〜!!』

「あれ、道香さん?研磨さんなんかした?んスか?」

「別に」

『絶対研磨のカバングミだらけにしてやるんだから!!』

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