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『ラストのどんでん返しマジヤバかったー!うっわ明日絶対夜久にネタバレしよ!』

「あっこすごくなかった?最後のアクションのとこ。」

『すごかった!めっちゃ面白かった!』





カフェで腹ごしらえをした後。映画に観に行こうとの黒尾の提案で、最近道香が観たいと言っていたアクション映画を観に行く事になった。

そして今はその帰り道だ。





「楽しかった?」

『うん、めちゃくちゃ楽しかった。』

「そ。俺もすっげー楽しかったわ」

『…珍しい、黒尾がそんなこと言うなんて。明日は槍が降るの?』

「俺を何だと思ってんだ」





送る。そう一言言った黒尾に照れたように笑って頷いた道香。こうして黒尾がいつも2手前の駅で電車を降りるのも、もう何度目かになる。

黒尾は、2人で出かけて日が暮れると決まって家まで送ってくれていた。

隣で「あ?」とこちらを見下ろしている黒尾をチラリと見て、なんだかこそばゆい気持ちになって。

道香の記憶の中に居る黒尾は、いつでも優しい。





『また遊びに行こうね。』

「!……おまえ、そういうとこなんだよな…!」

『は?何が?』





誰にでもこういうことをできる人ではないと知っているからこそ、大切にされているのだと感じる。それが恋愛感情なのか仲間だと思っているからなのかは、今のところ道香ははっきりとわかってはいないが。

素直に感情を口にした道香に、黒尾は一瞬目を大きく開いた後溜息を吐いた。
急にダメ出しをするようなそんな言葉。黒尾は、ポカンと口を開ける道香を見る。





「…可愛すぎだろ。」

『っな、に言ってんのっ』

「道香が悪いんですぅ〜、急に可愛いこと言うから〜!」

『別に普通でしょ!』





そんな一言は、いつも心の中でしか言えなかったこと。夜久に言われた時よりも、灰羽に毎日言われるそれよりも、グッと身体が熱くなる。

顔を赤くした道香が少し前を歩く黒尾を小走りで追いかけると、高い位置にある黒尾の耳が赤いことに気がつく。隣に並んでそれをからかおうとすれば、黒尾はまた道香を見下ろして今度はニッと笑う。





「次はランド行くか、制服で。」

『!っはは、そればっかじゃん。実は黒尾が行きたいんでしょ。』

「いや別にランドじゃなくても色んなところ行きてえわ。」

『……急に素直こわい』

「俺はいつも素直だって」

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