Familia
顎を伝った汗を肩で拭う。この嘘はつき通さなければならないと覚悟し、大丈夫だバレやしないと自分自身を落ち着かせた。
それでもなお止まらない肩の震えを抑えるように女の子が後ろから、殺されなくてよかったねと声をかけてくれる。でもそれは今の私には逆効果で、嘘を見透かされているように感じた。
「ベビーファイブ、後は頼んだぞ」
「はい若様」
女の子は”若様”の言葉に頬を染め、語尾にハートが付きそうな声色で返事をした。
「今からスパイダーマイルズってところにいくのよ」
フワフワと揺れる船の中をベビーファイブと呼ばれていた女の子と歩きながら話す。赤ちゃんはジョーラと呼ばれていた女の人に連れて行かれてしまったので、今私の手は女の子に繋がれていた。
緊張で私の手はぐっしょりと汗に濡れていたから彼女は気持ち悪くないのだろうかと、会話とはなんの脈絡みも無いことを考えていた。
「あ...」
島が見えたのだ、青い海の向こう側に。やっと口を開いた私に彼女は振り返り、忘れていたと言うようにベビーファイブよと自己紹介をしてくれた。私もこのままではいけないと自分の名前を告げる。
その後はこの海賊団は”ドンキホーテファミリー”だと告げられ、あの若様と呼ばれた男の人はドンキホーテ・ドフラミンゴ。コートを燃やしていたのは彼の弟でドンキホーテ・ロシナンテだという事を教えてもらった。ドフラミンゴさんは若様と呼ぶこと、ロシナンテさんのコードネームはコラソンだという事も。
他にも幹部の人間の話や、さっきのゴーグルの男の人の話なんかもしてくれた。
船にいる人よりもはるかに多いメンバーの紹介に頭はパンク寸前で、ありがとうと伝える。
「今日からあなたも私たちの家族ね」
”家族”という言葉に父さんと母さんの姿が浮かぶ。私は無意識にベビーファイブの手を強く握っていて痛いよと少し睨まれてしまった。
船が岸に寄せられ動きが止まる。私は初めて他の島に来たことに胸が高まるも、どんどん船から降ろされていく宝箱のようなものや食料に本当に私も海賊になってしまったのかと胸がドクリと音を立て、これからの酷くなるであろう生活に息を飲んだ。
ふう、と深呼吸を一つ。後ろから早く進めと言うように足が飛んできて背中が痛い。数歩進んで振り返ると私を足蹴りにした本人はすっ転んでいた。
「コラさんがこけた!」
嬉しそうに笑ったベビーファイブにコラさんと呼ばれた彼の平手打ちが飛ぶ。彼女は泣きながら頬を押さえ、私の横でまで駆け足で来るとおとなしく歩き出した。
戻る