Sobreviviente
銃声とパチパチという炎の音。
私は体を強張らせて横たわる父さんと母さんに駆け寄った。
「とう、さん...?」
すごい音を立てて崩れたのは私たちの家。なんで、なんでと父さんと母さんの手を握るけれど、冷たくなっていく二人の体温を感じてしまってぼろぼろと涙がこぼれた。
火の粉が待っていてあつい。この町は終わったんだ。聞こえる悲鳴と銃声はだんだんと少なくなって、なまえちゃんと私の名前を呼ぶ声が聞こえ顔を上げた。
「村長さ、ん」
大丈夫か、怪我はないかと地面に座ったままの私を立たせてくれる。村長さんの額からは血がつたっていた。
「と、うさんと、かあさんがぁ...」
村長さんに向かってわあわあと泣きわめく私。止めようと思っても止まらないそれは村長さんの大きな手に拭われる。
「いいか、この町は捨てられた。海軍はもう来ない」
ここも危ない、森の近くにある橋の下に逃げなさいと。私はそんな話を聞いてもすぐに行動には移せなくて、いやだとか村長さんもここに居てだとか。心ではわかっているのに口をついて出る言葉はそんなものばかりで、村長さんはすまないと私を抱きしめた。
「私はまだ残っている人たちを避難させなければならない。あとで必ず迎えに行くから」
はやく逃げなさい。そう言って私を抱きしめてくれた村長さんは私の背中を押した。
我慢しても我慢しても溢れてくる涙を拭いながら走って橋へ向かう。途中きゅうっと胸が締め付けられる感覚がして足を止め、呼吸を整えた。
「...走っちゃ、いけないんだった」
小さい頃母さんに言われた言葉を思い出す。それが何故かは教えてはくれなかったのだけれど、走ってないよと独り言を言いながら少し速さを抑えた。
土を蹴る音と、パチパチという炎の音の中に誰かの泣き声が聞こえ足を止める。あたりを見渡すと井戸の影に置かれた少し大きめの籠が目に入り、ゆっくりと周りを気にしながら近づいた。
やはりさっき聞こえた泣き声は籠の中からで、周りをぐるっと見渡して籠を覗き込むと帽子をかぶった赤ちゃん。
「あ、...」
私と目のあった赤ちゃんは一瞬泣き止んだにもかかわらず、またわんわんと声を大きくして泣き出してしまった。このままでは誰かに気付かれてしまうとその赤ちゃんを抱き上げよしよしと背中を撫でる。
私のちいさい体には赤ちゃんはとても重かったけれど、大丈夫だよと昔母さんにされたように赤ちゃんをなだめながら歩き出す。
「...村長さんが迎えに来てくれるからね」
日が沈み街の炎で空が赤い。橋が見えたから私は赤ちゃんを一度抱き上げて橋の下に潜った。
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