Corazón | ナノ




Preocupación innecesaria

朝、いつもの時間いつもの景色。はねた前髪を撫でつけながらベッドを抜け、朝独特の身体のだるさと働きの悪い頭をどうにかしようと顔を洗った。


冷たい水にぎゅっと目をつむり、フカフカのタオルで顔を包む。朝ごはんの支度のことを考えながら、今日からはきっとローくんの分もしっかり用意されるだろうからお皿がもう一枚増えるなあ...。なんて考えていた。しかしそこまで考えて、昨夜のことを私は思い出す。
ポトリと洗面器に落ちてしまったタオルは水を含んでいた。


「...怒ってる...かな...」


昨日のは何だったのか、どういう意味だと聞かれやしないか。そこでべらべらと話してしまえば私が昨日、部屋を出た意味がなくなる。

どうしよう、どうなるの。

そんなことを今考えても意味はないのだけれど、とてもじゃないが平常心でいられるほど私の心臓は強くなかった。


「うう...」


キリキリと胃が痛くなる気がした。昨日ローくんの部屋になんて行かなければよかったのかもしれない。
いつのまにか彼に心を許してしまっている自分がそこにはいて、それがどれだけ危険なことかを考えた。


「しっかり、しないと」


私の嘘は誰にも気付かれてはいけない。あと2年もあるんだもの。まだまだ、大丈夫。ばれやしない。誰にも、ばれちゃいない。

ぐずぐずと考えを巡らせて、気づけば時計の針はもう半分を過ぎたところ。ドアをノックする音がして、ベビーファイブの控えめな声。


「い、いま行く」


なんだかとても不安定になってしまっている自分自身に少し不安を覚えるも、今までちゃんとやってきたじゃなかと自分に声をかけ、不安げに歪んだ顔をもう一度洗って部屋を出た。




厨房へ向かうとやはり一枚分多く用意されたお皿がある。
私は出来上がった料理を盛り付け、大広間の長テーブルに綺麗に並べた。用意が終わる頃にはみんな次々に起きてきて、気がつけばコラさんはもう自分の席に座って煙草を吸っている。


「コラさん、ライスですか?パンですか?」


それは毎朝繰り返される恒例の質問で、コラさんはいつも”ライス”と書かれた紙を私に渡していた。その行為は私とコラさんだけのもので、他のみんなは大体パンだからそこに特に意味などない。そして今日もその行為は行われ、私のエプロンのポケットにはまた”ライス”と書かれた紙が入れられるのだ。


私はその紙を持って厨房に戻るとジョーラにライスですと伝え、コラさん専用の椀を用意した。ホカホカとした白米がふんわりと盛られ、炊きたてのいい香り。
冷めないうちにと私は急いでコラさんの元へそれを運んだ。


「コラさん、ホカホカです」


コトリと音を立ててテーブルに置かれたそれを見て、コラさんはこちらに向くことはなく、私の頭に手だけを置く。

それは多分、きっと、ありがとうってこと。
私はなんだか照れてしまい逃げるように自分の席へ向かった。




みんながテーブルに集まり、すこしガヤガヤと騒がしくなる。食器同士の擦れる音や昨日見たおかしな夢の話。
私の横ではローくんが眠そうな顔でスクランブルエッグを食べていて、心臓が跳ねた。


「お、はようございます」

「...ん」


何か話さないとと緊張しながら出た挨拶は敬語。それでも無愛想に返された言葉は一文字だけで、あれ?と気が抜けた。
思っていたような反応は返ってこず、私の頭には疑問符が湧いてきては消え、湧いてきては消え。
もしかして何も考えてないのかもしれないと少し安心。あんなに不安になっていた自分を笑ってしまった。


「...なにわらってんだよ」

「っ...べ、べつに」


不意のツッコミと彼からの痛々しい視線に、私はハッとして意識を食事にもどした。なんだ、怒ってない。

よかった。

緊張が解けたからか食欲が戻り、私はバターロールパンを3つ、カゴからお皿に移した。





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