Su mirada
ー お前を正式に『ドンキホーテファミリー』の一員に迎えることにした ー
ドフラミンゴの言葉が脳内を巡る。おれに向けられた言葉は予想をはるかに超えていた。
コラソンを刺した事で拷問が始まるのだと思って覚悟を決めたおれが馬鹿みたいだ。
「...あいつ、おれをかばったのか...?」
ドクリドクリと未だ鳴り止まぬ心臓に息を深く吸い落ち着かせる。コラソンのやつが何を考えてるかわからねえ。
「...ーくん、...ローくん!」
「...なんだよ」
ぐるぐると思考を巡らせていたせいか、なまえに声をかけられていた事に気付かなかった。睨まないでよというこいつはおれより少し身長が低い。
「睨んでねえ」
一言残し、足を進める。新しくおれに割り当てられた部屋はまあまあの広さと本の量だった。ふーん、と女の声がして、いいなあという言葉が続けられた。
「...勝手についてくるな」
「...いいじゃない」
むっと怒った様に歪められた顔はぶさいくだ。
変な顔。おれがそういうとなまえは笑い、よかったねと告げた。
ファミリーに入れて、だそうだ。そんなものおれにとってはまだ始まりにすぎないのに。
おれは目に付いた本を適当にテーブルに積み表紙をめくる。なまえはベッドに腰掛けて薄ぺらな本のページをめくっていた。
しばらく紙の擦れる音とギシリというベッドのスプリングが軋む音だけの時間が過ぎ、時々ファミリーでの過ごし方、なんてことをなまえは本を読みながらでも話していた。おれは聞き流すようにしていたが、パタリと聞こえた本の閉じられる音で読み終わりを察っする。
出ていくのだろうかとなまえに目を向けると、閉じられた本の表紙をじっと俯くように見つめている。
なんなんだとおれはまた文字の列に意識を戻し、ページをめくった。
「私も海兵が嫌いだよ」
ぽつりとこぼされた言葉にピクリと反応する体。なぜいきなりそんなことを言い出したのか。ベッドへ体を向けたがすでになまえは立ち上がり、歩き出していて、何故か声をかけることができなかった。
「おやすみなさい」
部屋から出て行く後ろ姿を見つめ、閉じていく扉。こいつががなにを考えているのかわからない。変な奴だと、おれは本の表紙を閉じた。
......
「...言っちゃった」
自室に向かいながらドクドクとなる胸に手をやっていた。早まる足が途中でもつれ、転びそうになる。
私はローくんの部屋で本を読みながら、彼の過去について考えていた。”おれは海兵が嫌いだ”その言葉を聞いた時から、その言葉が胸に突き刺さったように私の頭の中をぐるぐると回っていたからだ。本の内容なんてほぼ頭に入ってこない。
私がこのファミリーに入る前、グラディウスが”お前らの街は政府に売られた”と言っていた。つまりは、まあ。そういうこと。海兵達の目先の欲で、私は家族を失った。
「はあ...」
さっきの私が発した言葉をローくんはどう思っただろう?最低な奴?同情なんていらない?何も話していないんだから、何を思われても仕方がない。
私はローくんの話を思い出している時、私の話も聞いてほしいと思った。
そう思ったけれど、ローくんに”私”の話をしてしまったらファミリーに対してついている”私の嘘”まで話してしまうような。そんな気がしたのだ。
「寝よう...」
いつの間にか私は自室の扉を開けていて、ホッと胸をなでおろす。
まだ、時間はあるから大丈夫。そう自分に言い聞かせ、私はベッドに身を任せるように眠りについた。
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