大丈夫、大丈夫
(エース視点)
マルコが拾ったガキを風呂に入れることになった。マルコが見ず知らずのやつに手を差し伸べるのも珍しいが子どもって所がまず驚きだな、と一人で考えながら下しか履いていない洋服を脱ぐ。だがガキは一向に動こうとしない。
「なにしてんだ?はやく脱がねえとおいてっちまうぞ」
まさかひとりで脱げないのか、と腰にタオルを巻いてしゃがみこむとガキが困惑の表情を浮かべていた。
「ね、なまえだれもしらない」
ああ、さっき”おまえはだれだ”とか言ってたな。俺のことだと思っていたがまさかマルコのことも知らねぇのか、と未だ困惑の表情を浮かべているガキ...今なまえって言ったな。なまえの目を見ながら自己紹介をした。
「俺はエース。ポートガス・D・エースだ」
お前はなまえだろ?と頭をワシワシと撫でようとしたがやめた。手を頭のほうに持って行くとなまえの表情が困惑の表情から恐怖の表情へ変わったからだ。なんだこいつ、と思いながらも俺はマキノさんに習ったようになまえに頭を下げた。
「なまえね、とうさんのむすめになったんだよ」
「ああ。これからは俺の妹になるんだ。よろしく頼むぜ」
いいよ、となまえは恐怖の表情から一変。照れたようにうなづいてエース、と自分に覚えさせるように小さな声で何度も俺の名前をつぶやいていた。
「風呂行くか」
なまえがはっとして、もぞもぞと服を脱ぎ始めたのを見ると早く来いよ、とだけ伝えて脱衣所から歩き出した。しばらくして俺についてくる小さな足音が聞こえた。
まずは体を洗ってやらねえと、と思い洗い場に足を向ける。途中に滑るなよ、という言葉も忘れない。子どもは風呂場でよく転ぶのだ、ルフィがそうだった。俺は風呂椅子に腰掛けて自分の前にも風呂椅子を置く。
「なまえ」
名前を呼ぶと俺の前にある風呂椅子に座れということを理解したのか俺と同様、なまえは風呂椅子に腰掛けた。
そして、その小さな背をみて目を疑った。
無数のアザと火傷のあと。そこからさっきの表情にも納得ができた。頭上に手をやられることはこいつにとって殴られる事なんだ。マルコはこれを知っているのだろうか、もし知らないなら俺だけでいい。知っていたなら俺たちだけで十分だ。ハルタなんかがこれを知ったら変に気を使いそうだしな。なによりこいつは女なんだから知られないことに越したことはない。
「エース?」
しばらく俺が動かないことになまえが声をかけてきた。俺は無意識に大丈夫、大丈夫だからな、なんて柄にもないことを口走っていた。
なまえはなんだなんだと言うようだったが俺は気にすんな、と笑ってシャンプーを手にとった。
「頭、洗うぞ」
一言でも言うだけで恐怖心も少しは減るだろうと俺なりの気づかい。全身綺麗に洗ってやって、俺も洗って。二人で湯船に浸かりながら白ひげ海賊団のクルーの話をした。
大丈夫、大丈夫
戻る