あなたがいなくなった後のことを想像する。一人きりでただ毎日を垂れ流すようにして過ごしていくのは、たまらなく怖いと思った。



「行くの」
「、ごめん」
「連れていってくれないの」
「…ごめんな。できない」
「やだ。やだ、仲権、」


やるせない思いで握りしめた拳がひどく痛んだ。けれど、彼の痛みはきっとこんなものではないのだろう。ふと、左手を温かいものが包んだ。はっと仲権を見ると、赤くなった瞳とわななく唇がぼんやりと見えた。


「俺だって、やだ」


泣き出しそうな仲権の声も、なまえも知らない虫の泣き声も、すべてが濁ってきこえる。靄がかかったような淡々とした音としてしか私の頭に届かない。
鮮明に聞こえるのは、自分の中で波を打つ心臓の音と、たまに揺れる仲権の息だけだった。


「、もう行くわ。またな」


またって、いつ?聞けなかった。聞けるわけがなかった。またねって、元気でねって言わなくちゃいけないのに、浮かべようとした笑みは曖昧に崩れてしまう。「うん」。ようやく絞り出した声は酷く震えていて、なんだかみっともなかった。

左手を包む彼の手のひらは大きくて暖かくて、好きだと、このまま離したくないとさえ思った。ちがう。離さなければよかった、だ。ぐっと一度だけ強く握られた手は、それを合図に往生際悪く離れて行った。



風はあの日と変わらずに強く吹き付けているのに、だらしなく流れ続ける私の涙を乾かしてはくれない。





(110812)
企画「終焉」に提出
BGM:雨待ち風/スキマスイッチ




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