どうやって帰ってきたのかは分からない。気が付くと自分の部屋にいた。なんだか頭がよく回らない。さっきのなんだったんだろう、思い出したくないのに頭がそれでいっぱいだ。


「どうしよう‥」


分かってた、気でいただけなのかもしれない。わたし本当はそういうの全然分かってない。
明日から千歳とどんな顔して会えばいいのか分かんないよ。





結局昨日は夜にきた千歳からのメールをなんでもないふりをして返信したものの、よく分からない複雑な気持ちがグルグル頭と心の中に渦巻いていてあまり眠れなかった。いくら経験のないわたしでも知っている。中学生の男の子ならああいうものに興味のある年頃なんだって。クラスの男子もそういう話で盛り上がっていたりするし、友達だって彼とどーのこーのと話したりする。まったく知識がないわけじゃないはずなのに、なんでこんなにうろたえているんだろう。というより、わたしはなんでこんなよく分からない気持ちになってるんだろう。


「桜!」


ビクッ!、ちょうど靴箱で背後から聞こえた声に振り返るとニコニコ嬉しそうに笑った千歳がいた。


「おはよっ」
「おはよう」
「昨日はありがとな、おかげで一日で治ったばい」
「あはは、それはよかった」


教室へ向かいながらたわいのない話をする。いつもと一緒なのになんでだろ、千歳の顔が見れない。


「なあ」
「なに?」
「なんかあった?」
「‥‥え」


立ち止まった千歳につられて顔を上げると真剣な顔でこちらを見つめる千歳がいた。ドクン!今までとは違う心臓の音が聞こえた。
わたしは慌てて千歳から笑いながら目を逸らす。


「なに言ってんの、なにもないよー」
「ばってん、お前‥」
「ほら教室ついた!また後でねー」


無理矢理話しを終わらせて教室へ逃げ込んだ。ドクドクドク‥なんでこんなに変な心臓の音がしてるんだろう。今までならドキドキしてきゅんってして見えない幸せに満たされていたのに。わたしは自分の心臓をギュッと押さえる。なんだか今は違うもので満たされているような気がする。
昨日からずっとだ。考えたくないことがずっと頭を支配している。あの胸の大きな女の人を見ている千歳。部屋にあったってことは間違いなく千歳のもの。そんでもって、つまりはあれが千歳の好みのタイプの女の人だということだ。
わたしは自分の胸を見下ろした。到底あれに太刀打ち出来るものは持ち合わせていない。胸も腰もくびれも足も、なにもかもが敵わない。


「‥はあ‥」


なあんだ、本当はわたしじゃ満足出来ないってことなんだ。それってすっごくショックだ。

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