逃げてきてしまった、六道骸のもとから。キライじゃないし、あの‥キス‥もイヤじゃなかった。逃げる必要なんてなかったのだけれど、恥ずかしかったのだ。初めてキスしたことも、そのあと六道骸に言われたことも、そんな六道骸を好きだと気付いたことも。同じ学校じゃないから、こんな中途半端なままじゃまたなかなか会えなくてツライ思いをするの分かってるのに。まともに恋人なんていたことのないあたしにとって、六道骸とのやり取りはすべてがくすぐったくて恥ずかしくてあまりの甘さに慣れない。朝から昨日の六道骸が頭から離れない。


「で、結局付き合うことになったの?」


報告と言う名の惚気を言えば沙菜にそう聞かれた。キョトンとした顔をすれば、そんなあたしを見た沙菜に怪しむように首を傾げられる。あれ、そういえば六道骸とそういう話をしたことない。好きだとも言われてない。あたしは黙り込んで考える。言われてみれば、今のあたしと六道骸の関係ってなんなんだろう。またしてもおかしな不安に包まれる。あたしって馬鹿だ、またこないだみたいに中途半端になったまま会えなくて苦しい日が続くの?もうあんな気持ちになるのはイヤだ、会えないだけでこんなに苦しくなるのに。


「あれ?ねえ、見て見て!あそこにいるのって骸さまじゃない?」
「わあ!ほんとだあ!」


すぐそこにいた女の子たちが教室の窓から顔を出す。聞こえてきた名前にガタンッと立ち上がると、急いで外が見える窓際まで行く。そこには、校門に持たれて立っている六道骸の姿があった。「誰か待ってるのかな」「ねー」、女の子たちの声はもう聞こえない。あたしは急いで教室を飛び出すと階段に廊下を走った。










「六道骸っ」
「、!」


全速力で走ったので息が切れる。こんなに必死に走ったの久しぶりなんだからね、あんたは知らないだろうけど。もう午後の授業も終わっている時間ではあるが、ホームルームも含めるとまだまだ学校自体が終わる時間はやってこない。こんな時間からここで待つつもりだったのだろうか、本を片手にした六道骸はあたしがやって来たことに驚いたようだ。


「学校は‥」
「いーの!あんたが教室から見えたから‥」
「ああ。昨日はちゃんと話が出来なかったので」


あなたを待っていました、ゆっくり微笑みながら言われてなんだか恥ずかしい。こういうの、あたしと違って六道骸は得意みたいだ。甘い言葉とか甘い空気とか。


「昨日は突然びっくりさせてすみません」
「へ、なにがですか?」
「え、あ‥いえ。‥キス‥したことです」
「えっ!」


言いにくそうに六道骸はあたしに告げる。その単語にカアーッと顔が赤くなる。聞き返さなきゃよかった、あたしのバカ。そう思うと同時に昨日の六道骸との出来事を思い出してしまい、俯いたままさらに顔を赤くさせる。見れない、目の前できっといつもみたいに余裕こいた笑った顔を。少しだけ沈黙が続いて様子をうかがうようにチラリと見上げると、同じく困ったように目線を斜め下に向けた六道骸がいた。いつもと違う顔、そういえばこんな顔こないだも見たような気がする。ぼんやりとそんなことを思い出しながら見つめていると、パチリと合った瞳にまた戸惑う。


「なん、で」
「え?」
「なんで、そんな顔してるんですか」


今までの六道骸を見てきてただ純粋に気になったことだったのに、びっくりしたまま固まってしまった目の前男に目をパチパチさせる。それからあたしをみるなり、ハアー‥と盛大にため息をつかれる。なんなんだ!


「なんでため息とか‥」
「キス」
「、はっ?」
「なんで、貴方にしたと思いますか?」


唐突な質問は考えれば考えるだけ恥ずかしい内容だった。なんで、なんて。答えは六道骸だけが知っていてあたしからすれば正解は山のようにあるのだ。そりゃあ、これだったらいいなって思う答えはたった一つあるけれど。それはあたしの願望であって必ずしもその答えが六道骸の質問の答えと一致するとは限らない。ただでさえ恥ずかしい質問なのに、これで間違えたらもうそれこそ二度と六道骸と会えない。
そんなあたしの不安もかき消すように、ズイッと遠慮もなく近寄るとあたしの頬に手をそえる。ドキッ!、六道骸にまっすぐ見つめられてすぐにキスという単語が頭に浮かんだ。覚悟を決めて目を閉じたのになかなかその感触は唇に降ってこない。


「ちゃんと教えてください」
「‥え」
「好きなんです。もう、ずっとずっと、あなたの事が」


まっすぐ見つめる六道骸の瞳が必死にあたしを映す。余裕こいた、なんて誰が言った?全然余裕のない六道骸の不安定な瞳になぜだか不安な気持ちがとかされる。


「先に謝ります。すみません」


なにが?、そう聞くまえに唇を奪われた。今度はちょっぴり強引に。言葉と裏腹な強引なキスに六道骸の愛を感じてしまったあたしは、もうこの男に落ちるしかないみたい。キスしてからも確かめるようにぎゅうっと抱きしめられて何度も何度も耳元で好きですと告げられる。こんなに好きなのはあたしの方だよ、今度はちゃんと逃げずに言葉にして。


「好き、です」


愛しい目の前で待ってるキミに伝えよう。

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