キーンコーンカーンコーン、一日の最後の授業が終わるチャイムが鳴った。それは今日一日の学校が終わりを告げる音だ。んんーっと背伸びをして苦手な数学に集中していた体をほぐす。小学生の頃から数学は苦手だった、なにがどうしてそうなるのかを理解するまでは全然分からない。そして面倒くさがりで何事も適当なあたしにとって数学みたいに答えが一つしかないモノほど不得意なものはない。ため息をつくと同時に隣りの席からも大きなため息が聞こえてきた。


「あは、ツナも数学苦手だったっけ」
「苦手どころじゃないよー。大嫌いだよ」
「あたしもー」


今日も机の中に大量の教科書を起き勉して、苦手だと言うわりに勉強する気なんてサラサラない。風紀委員の雲雀さんにばれたら怒られる程度じゃすまなそうだけど、こんな重たい荷物を毎日持って歩くなんて面倒くさくてたまらない。ツナもそれは同じみたいで時々宿題を忘れて帰るみたい。
帰る準備をしているとバタバタと獄寺くんもやってくる。「十代目ー帰りましょう!」返事も待たずに腕を引っ張る獄寺くんに慌ててついていくツナ。獄寺くんはいつもツナのことを十代目と呼ぶ。なんで?って一度ツナに聞いたらすっごい慌てて、知らないよって言われたので深くは追求しないようにしている。


「そうだ!桜も一緒に帰らない?」
「ちょ、十代目!なんでこんなやつと!」
「いーじゃない、たまには」


ニコニコしながらわたしを呼ぶツナは獄寺くんが怖いと言っていたのを思い出した。いつも思ってたけど変な関係だよなあ、この二人。性格真逆なのにいつも一緒にいるし。あからさまに嫌そうな顔をする獄寺くんに向かって舌を思い切り出す。


「誰があんたなんかと」
「んだとテメエ!」
「あんたらと一緒にいたら、ろくなことないし」


そう言いかけて廊下をかけていく女の子たちの会話が耳に飛び込んできた。「ねえねえ校門にいる黒曜中の男の子見たあ?」「見た見た!超かっこいいよねえ!」。黒曜中、その中学は一番聞きたくない学校名だ。前にツナたちと一緒にいるときに黒曜中の生徒に捕まって、変な質問をいっぱいされたことがある。どこに住んでるかとか血液型とか好きなタイプとか。とりあえずその男の子に身の危険と恐怖を感じて、その日からツナたちに関わるとろくなことがないと学んだのだけれど。


「こ、黒曜中って‥」
「まさかな」


苦笑いをするツナに数学よりも面倒ごとが待っていることを感じとってしまった。まさかまたあの変な男がやって来たのだろうか。切実に二度と会いたくはないので裏門から帰ろうと心に誓い、ツナたちと別れてダッシュで廊下を曲がると目の前からきた誰かとぶつかった。


「おや、お久しぶりですね。桜」
「うわっ!出た‥」
「出た、だなんて‥僕は貴方に少しでも会いたくてやって来たと言うのに」
「あたしは断じて会いたくなかったですけどね」
「またまた、そんなところも素敵ですよ」


クフフフ‥、目の前でニヤニヤ笑うこの男には何度会っても何を言っても無駄だ。せっかく裏門から逃げようと思っていたのに、他校の生徒が無断で学校に入っていいのだろうか。ニコニコニヤニヤ笑うこの男はいつもこうやって笑っているのだけど、その笑顔が胡散くさくてどうも慣れない。あたしの回りはツナとか獄寺くんとか、素直に顔に出るタイプばっかりだもん。正直なにを考えているのか分かりずらいこの男と喋るのは、苦手だったりする。
それにしてもいつも以上にニタニタ笑うこの男、気持ち悪くてたまらないんですが一体なんのまねだ。キッと睨みつけるとクフフと笑い、こちらをじっとり見つめてくる。正直やめてほしい。


「なんですか、あんた」
「なにがです?」
「ニタニタニタニタ気持ち悪いんですけど」
「クフフ、いやすみません。君のスカート姿を初めて見たのでつい」
「‥‥は?」
「いいですね、スカート。脚が見えますし」


あたしとこの男の間で時間が止まる。誰かこいつを殴ってくれ、まじで。思い切り無視して速歩きをすると、大股でなんでもないようについてくる。睨みつけても毒を吐いても通用しないこの男、もしかしたらツナや獄寺くんよりも分かりやすいのかもしれない。

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