なんだろう、この清々しい気持ち。誰かを好きになってその気持ちを認めることって、こんな簡単なことだったのか。今なら憲治のはしゃぎたくなる気持ちも分かる気がする。





昼休みも後半分になったところで俺は屋上から教室に戻ってきた。ガラッ!と教室のドアを開けると、あからさまにびっくりしたみんなが俺の回りに集まってきた。理由は分かってる。


「赤也!どうしたんだよ、それ!」
「うわー‥痛そ‥」


それぞれが痛々しい目で見つめる視線の先は俺の赤く染まった頬だった。綺麗な手形がついている。

あの後、好きな子がいると告げた俺に対して末次先輩は顔色を変えずに「なあんだあ」と笑った。付き合ってる子がいるわけじゃないならあたしと付き合おうって。別にいいでしょって。なんかそん時にいろいろ思ってしまった。女って、顔や胸のでかさで選ぶもんじゃないんだなーとか。そういえば憲治も言ってた。胸でかい女は好きだけど、彼女は別だって。そういうことかよ。素直になることを覚えた俺はニコニコ笑う末次先輩に「俺、胸が小さい女が好きなんです」とバカ正直に答えた。すると、あり得ないパワーのビンタが飛んできた。一瞬記憶が飛んで、サイテー!の言葉だけがジンジン耳の奥に響いた。


「で、結局告白はその様子だと上手くいかなかったんだろー」
「上手くいくも何も、好きでもない奴と付き合えねーよ」
「赤也って意外と小悪魔だな‥」
「は?何だそれ!」


ぎゃあぎゃあ騒ぎ出す俺と憲治にまたバカみたいに笑う男子。やっぱ俺、こうゆうのがいい。末次先輩みたいに甘い感じの雰囲気も嫌いじゃないけど、まだまだ俺にはこっちのバカみたいに笑える空気のが好きだ。


「でも一応冷やした方がいんじゃね?結構はれてるし」
「平気だろ」
「ダメダメ!おーい、木下さーん!」
「なっ!!」


突然木下を呼び出した憲治に驚いてガバリと振り返る。何で今あいつを呼ぶんだよ。喧嘩してんの知ってんだろ、バカ!


「‥どうしたの?」
「赤也の頬がはれてるから保健室連れてってやって」
「‥え、でも」


困った顔でたじろぐ木下に、断られることが怖くてビクビク何も言えない俺はヘタレだ。好きだと気づかなかった時は平気で文句とか好き勝手なこと言ってたのに、好きだと気付いた途端言えなくなるなんて。何を言えばいいのか分からず黙り込んでいると、グイグイと憲治に肘を腹に当てられて見上げると「早く仲直りしてこいよ」と小声で言われた。なんだよ、お前。いーやつじゃん。憲治との熱い友情を再確認した俺は、ガシッと木下の腕を掴むと引っ張った。困った声で呼び掛けてくる木下を無視して、ズンズンと保健室へ歩く。





保健室は喧嘩したあの日と同じように誰もいなかった。腕を掴んだまま引っ張ると、木下が困った顔をしてしどろもどろ声をかけてきた。


「‥ホッペ、叩かれたの?」
「あー‥まあ」
「喧嘩、したの?」


喧嘩?喧嘩と言えば喧嘩だけどなんとなく意味が違う気がする。不安そうな顔をした木下になんだかフツフツとイタズラ心がわいてくる。なんだ、俺がこいつばっかいじめてたのって好きだからだったのかよ。今頃気付いたし。
今だに不安そうな顔した木下に、どうしようもなく意地悪したくなってニヤニヤしそうになるのを我慢して罠を仕掛けてみる。


「俺、末次って先輩に告られた」
「!」
「ほら、こないだ教室に来てた先輩」
「‥つ、付き合ってるの?」
「さあな」


あーやべえ。泣きそうになる木下が可愛くて仕方ない。なんだこの気持ち。やっぱり俺、お前が好きだ。


「なーんちって!」
「は?」
「付き合うわけねーじゃん!好きでもないのに」
「なっ!騙した!」
「お前が勝手に騙されたんだろ」


サイテー!だとか、バカ切原!だとか、散々文句言われてやっぱりこれだなあって嬉しくなる。ポカポカ叩く木下の腕を捕まえて、近くにあったベッドに迫ってみる。後ろがベッドだと気付いた木下は急にカチン!と固まってものすごい勢いで押し返してきた。ばーか、力で俺に敵うわけねーだろ。足をかけるとギシッと音をたてるベッドがなんかやらしい。真っ赤な顔してビクビク見上げる木下が、もっとやらしい。


「ど、どいてよ!」
「やだね」
「もう、切原!本当に怒るよ!」
「なあ、キスしてもいい?」


俺の言葉に目を真ん丸にさせてパチパチさせる木下。やっと意味を理解したのか真っ赤になると、さっきよりも力を込めて押し返してくる。生意気な奴め。いやいや、と俯く木下に無理矢理口付けをするとジタバタ暴れていたくせにきゅっと俺の袖を掴んできた。ああ、やべえ。ここ保健室だった。どうしよう、どうしよう、止まんねー。


「‥んっ!き、りは‥ちょ!」
「‥っもっかいだけ」
「や!」


何度も何度もキスをして、調子にのって制服の上から胸を触ると思い切り頭を叩かれた。痛い。でも、その後に小さな声で「切原、好きっ」って聞こえたからよしとしよう。続きはまた今度。嬉しくて嬉しくて、多分今しっぽあったらブンブンに振り回してんな、俺。ホッペを冷やしてくれてる木下にぎゅうっと抱きつくと、頭の上から「もうっ」と怒った声が聞こえた。


「やっぱ俺、胸なくてもお前が好きだぜ!」
「切原、サイテー」


その後またしても反対側にビンタが飛んできたのは、愛情の裏返しってことで受け取っておきます!

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