「赤也くんー!」
「あ」
「おはよう!」
「えと‥お、おはようございます」


靴箱で向こうから走ってきた先輩に挨拶されて、慌てて返事を返すとニコッと笑われた。可愛い、と、思う。いや、これは俺の意見ではなくって一般的男の意見として。細くてスタイルよくて胸もボイン。何よりよく笑う。そんで笑った顔がまた可愛い。


「今日も暑いね!朝練だったの?」
「あ、ハイ」
「頑張ってんだ!あ、じゃあまたね」


向こうに友達を見つけたのかたちまちそちらに駆けていく。元気だなあ、なんて。じじくさいこと考えてしまった。何歳だ俺。友達と楽しそうに笑いながら歩いて行く先輩。最後にチラリとこちらを振り返って、まだ俺が先輩をぼんやり見てたのを見ると嬉しそうに大きく手を振る。俺はなんとなく大きく手を振り返すことが出来なくて、小さくペコリと頭をさげた。何かは分からない。分からないけど、何かが違うんだ。きっとその引っ掛かる何かがとてつもなく大事なことで、あの先輩じゃその何かが足りないんだ。


「あーかや!」
「グエッ!」


突然後ろから首をしめられて、誰だよ!と、キッと睨みながら振り返るとニヤニヤした丸井先輩と仁王先輩がいた。ゲッ、嫌なコンビに会っちまった。この二人に関わるとろくなことがないことを俺は知ってる。


「お前今、末次と話してただろ?友達?」
「いや、友達っつーか何つーか‥」
「何じゃ、付き合っとるわけじゃないんか」
「いっ!?ち、違うっすよ!」


つまんねー!と騒ぎ出した丸井先輩に、もし付き合ってたら何するつもりだったんだよ!とツッコミたくなる。この人たちはいつもそうだ。別に慣れてるからいいけど。


「あいつと付き合う気はないんか?」
「は?」
「は?じゃねーよ。明らかあいつお前のこと好きだろ」


好き、か。やっぱそうなのか。いや、分かってたけど、そうかなーってぐらいで確信とかはなかったから。でも丸井先輩と仁王先輩に言われたらもう絶対な気がする。もしそれが本当だったとして、俺はどうなんだろう。好きか嫌いかなら、嫌いではない。でもだからって好きでもないし。あーわけ分かんね。なんだこれ。


「たく、バカ也にいいこと教えてやる」
「てか、バカ也って何すか!」
「まあまあ、末次から伝言。昼休みに屋上に来てってよ」
「‥え、」
「逃げんなよヘタレ。ま、何の話かぐらいは分かんだろ?」


なんだよ、ガキ扱いしやがって。何でも分かったような顔した丸井先輩と仁王先輩がムカツク。好きって何だ、話って何だ。何で俺は末次先輩のその話とやらにビビってんだよ。何で、いつも。こういうことを考えるとアイツの顔が浮かぶんだ。あの時の泣きそうな顔した木下の顔が。










「ごめんね、急に呼び出したりして」
「いえ」


昼休み、先輩に言われた通りに屋上へ行くと末次先輩がいた。相変わらずニコッと笑う先輩は可愛い。


「あたし、赤也くんのこと好きなんだ。あたしと付き合ってくれないかな?」


変だ。この先輩からの言葉がなぜだか怖くてビビって、何て言おうかとか散々悩んでたくせに、いざ言われてみると答えなんか一つしかないもんなんだな。俺、先輩を可愛いなんて素直に思う時点で、きっと最初からこの人のことを何とも思ってなかったんだ。だって俺、天の邪鬼だし。思ってることと反対のことしか言えねーし。だから、きっと。


「すんません。俺、付き合えないっす」
「え、何で!?」


そんな悲しそうな顔で見上げられたって揺るがないくらい。こんな可愛くて素敵な先輩をフっちまうくらい。いつまでも素直になれないくらい。


「好きな子がいるからです」


今ならきっと胸張って言える。そんぐらい木下が好きだって。

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