千歳と付き合いだしてもうすぐ半年。それこそ付き合い始めの頃は毎日がキラキラしてて、二人きりになるたびに心臓が壊れるんじゃないかっていうくらいドキドキしていた。わたしにないものをいっぱい持ってる千歳に、毎日が大発見だった。あれもこれもとたくさん欲張って、いっぱいのいろんなものを千歳に貰った。主に目に見えないものばっかりだから、千歳がわたしにあげたっていう自覚があるのかは分からない。でも、わたしは確かにもらっていた。千歳にしかない優しさとか愛とか、そういうもの。
まあ、恥ずかしいから本人には絶対に言わないけどね。


「桜ー!」


廊下の向こうから金髪が駆け寄ってくる姿が見えた。千歳と同じテニス部の謙也だ。


「なあ、千歳見んかったか?」
「今日はまだ会ってないよ」
「また学校来とらんのやろか」
「サボり?」
「分からん」


そういえば今日はまだメールもきてないなあ。しょっちゅうフラフラする放浪癖のある千歳がサボることは珍しいことでもなんでもないため、謙也の言葉を深く考えることもなかった。「もうちょい探してみるわー」、それだけ言うとピュウッと風のようにいなくなる謙也。流石は自称スピードスターだ。
それにしても、千歳は何してるんだろ。サボるにしても学校に来るにしても、毎朝メールは来ていたはずなのに。少しだけ心配になったわたしは短い文章のメールを千歳に送った。返事が来たらすぐに謙也に教えてあげよう。





「何してんねん」
「ひえっ!」
「危ないで自分」
「し、白石かい!気配なく背後から話しかけんな!」


急に声をかけられて大袈裟なくらい肩が揺れた。白石は不審者を見るような目でわたしを見つめている。そんな目するな!別に悪いことしようとしてたわけじゃないし!
結局、午前中に送った千歳へのメールが返ってくることはなかった。学校には来なくても部活には来ているかもとテニスコートをこっそり覗いてみたんだけど、やっぱり千歳はいないようだった。


「千歳なら風邪で休みやで」
「へっ!?」
「千歳探しとるんとちゃうん?」
「そ、そう‥です、けども」
「熱あって朝から来てないで」
「熱う!?まじでか!」


あんなでかい図体で熱!て図体は関係ないけども。でも‥‥熱かあ。風邪かあ。大丈夫かな、なんか千歳ってでっかいだけあって病気とかに弱そうなイメージあるんだよね。寝込んでるのかも。


「お見舞い行ったれば?」
「‥うーん」
「お前が来れば千歳喜ぶと思うで」
「そう、かな」
「何遠慮してん、行ってきいや」


白石にぺしっと背中を押されて、なんとなくモヤモヤする胸を押さえて千歳の家へと駆け出した。下駄箱でキキーッと急ブレーキをかけると方向転換して千歳の教室へ向かう。机の中から今日配られたプリントを引っつかむ。千歳家へ行くという理由も作ったとこだし、ふうっと一息ついてわたしは走り出した。
白石はああ簡単に言ってくれたけど、本当の本当はそんなもんじゃない。バクバク鳴る心臓を押さえて、傾きかけている太陽に向かって走る。どうしよう、ここまできて不安になる。そうなのだ。半年も付き合って、わたしはまだ千歳の家へ行ったことがなかった。

「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -