憲治が持ってきたあのエロ本を見た日から、俺はなんだかおかしい。おかしいとは違う気がするけど、おかしくないわけはない。てことは、やっぱりおかしい。





「俺の好みはこんぐらいかな」


昼休み。俺の座っている机のイスに座っている男子生徒は、両手で丸くソフトボールほどの大きさの形を作る。


「えー!俺は絶対でかくないとダメ!」


それを見た憲治が、ここぞとばかりに反論する。そんな憲治に回りの友達は半分呆れる。


「憲治も好きだよなー」
「やっぱあるかないか言ったらあった方がいいじゃん!」
「つーかお前彼女は?」
「‥か、彼女はまた別なんだよっ」


なんだそれ、ギャハハ!と笑う男子たち。聞いてれば俺でも分かるように、今みんなは好みの胸のでかさについてを熱く語っている。ちょうど手に収まるサイズがいいだとか、揺れるくらいの大きなサイズがいいだとか。
いつもなら先頭きって騒ぐ俺だけど、今日はなぜか笑えなくてぼんやりと騒ぐ友達を眺めていた。


「赤也?」
「えっ!あ‥な、なんだよ?」
「今日静かじゃね?なんかあった?」
「べ、別にっ」


憲治に声をかけられて俺は慌てて首を横に振る。そんな俺に憲治は不思議そうな顔をする。
ほら、やっぱり俺はおかしいかもしれない。憲治たちみたいにエロい話が出来ない。出来ないというより、口にしてはいけないような、変な罪悪感がある。


「でもさ、このクラスの女子って結構巨乳多いよな」
「それ思った!」


ヒソヒソとクラスの女子をチラチラ見ながら話す男子生徒。俺はなぜかゴクリと唾を飲み込む。


チラリ。


俺はこっそりと女子を見る。その中で笑ってる木下がいる。俺はこっそりと目線をそらす。
木下は、あんま胸ねーよな。触ったことないけど見た感じ。つーか、なに言ってんだ俺!触るとかっ‥

グッと喉が熱くなる。ジンジン、体中が熱くなってわけもなく自分が恥ずかしい。


「て、赤也!お前熱あんじゃねーの?顔真っ赤だぜ!」
「あ、赤くねーよっ!」
「うわ!まじだ!絶対熱あるって!保健室行ってこいよ!保健委員ーもががっ!」
「だあーっ!!まじでいいって!!」


保健委員を呼ぶ憲治の口を後ろから思い切りふさぐ。もがもがとわけの分からない言葉を言いながら憲治は暴れる。





「保健委員は今いないけどどうかしたの?」


ドキーッ!


この声は木下だ。声を聞けば顔見なくても分かる。


「赤也が熱あるみたいなんだよ。保健委員いねーの?」
「えっ!切原が?」
「べ、別に!熱なんかねーよ」
「とりあえず、保健委員いないなら木下付き添ってやってよ。念のため熱あるか計っといた方がいいだろ」
「あたしが!?」
「頼んだぜ!」


トンッと押された背中と憲治の声に俺が振り返ったときにはもう、教室のすみに男子は集まっていた。取り残された俺と木下。この間のことがあったから、妙に気まずい。


「とりあえず行こ?」
「‥うん」


俺は木下の言うことに初めて素直に従ったかもしれない。















ピピピピッ


「んー‥熱はないみたいだよ」
「うん」


保健室には運がいいのか悪いのか、保健の先生はいなく俺と木下は体温計だけ借りることにした。


「でも、やっぱなんか違うね。風邪?」
「‥別に」
「元気ないし文句も言わないし、なーんか切原じゃないみたい!」


体温計を置いてあった場所に戻しながら、木下は珍しそうに言う。俺はあえて木下を目ないようにした。今木下を見たら、絶対に胸見てしまう気がする。


「きついなら寝る?」
「大丈夫。つーか、別にきつくねーし」
「無理してない?」
「してないしてない!」
「ほんとにー?」


グイッ、と困ったように覗き込んで見上げてくる木下に、俺は思わず固まってしまった。近い近い!そんなに顔近付けんな!


カタッ!


「‥‥」
「‥‥」


保健室の入口から聞こえた小さな物音に俺と木下は不信な顔をする。俺は無言で入口まで行くと思い切りドアを開けた。


「うわあっ!」
「ぎゃあ!」
「キャーッ!」


それぞれの叫び声をあげて、クラスの男女数人が保健室へなだれ込んできた。


「な、なにしてんだよ、こんなとこで!」
「い、いやあ‥赤也と木下が二人きりで保健室って言うから覗きに」
「憲治バッカ!なに正直に話してんだよ!」


憲治は後ろからボカッと頭を殴られて、慌てて口をふさぐ。だけどもう遅い。
俺は、またしても体がカッと熱くなる。なにに対してか。俺と木下がそういう対照にされていることに対してだ。回りにそういう風に見られてたっていうことがなにより恥ずかしい。
俺の後ろで、こんな俺とそんな対照にされてオロオロしてるだろう木下を見ずに、俺は言う。


「なんで俺がこんなやつと!」
「まあまあ、いいじゃん別に」
「よくねえ!憲治てめえわざと俺と木下を保健室に行かせやがって!」
「いだだだだ!悪かったよ、まじで!」
「俺にだって選ぶ権利くらいあんだよ!なんでよりによってこんなー」
「ちょっと、桜っ」


今まで笑っていた女子たちが暴れる俺たちを無視して、保健室の中に走って行く。女子を追って振り返ると、保健室の中に立っていた木下がうつむいて泣いていた。


え‥えっ?泣いて‥?


「ごめんね、桜。あたしたちも調子にのっちゃって‥」
「ごめんね、」


必死に謝る女子の中、小さくうつむいて子供みたいに手を丸めて泣いている木下に、俺は真田副部長の拳骨よりももっと強烈ななにかに殴られたような気がした。


「あ‥え、木下‥」
「あたしはこんなやつだもん‥」
「え、」
「こんなやつが相手で‥ごめん‥」


小さく呟く木下の「ごめん」に、俺はどうしようもないくらいに叫びたくなった。違うんだって。そんなことほんとに思ってるわけないって。でも、言えなかった。



女の子がこんなに小さいなんて、知らなかった。

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