それは、一日中雨が降っていて外で遊べないうえ部活が筋トレになった最も俺の嫌いな日の出来事だ。





「へい!パスパス!」
「バッカ!どこ投げてんだよ!」


育ち盛りな俺たちは雨の日だろうが雪の日だろうが、大好きな昼休みを教室で読書なんかに使えない。教室でだって廊下でだって、丸めて固めたタオル一枚あればサッカーも野球もハンドボールまがいな遊びもできる。


「赤也、行け!」
「シュートー!」


バシッ!!


俺の全力で投げ付けた球‥いやタオルは、憲治のカバンに勢いよく当たってカバンごと下に落ちた。


「やべ!憲治わりー!」
「ああ、いいって!別にひっくり返ってまずいもんなんか入って‥」
「なんだ?これ?」


雑誌みたいな本が落ちていたので拾いあげると、どわあーっ!!なんてわけの分からない声を発して憲治は俺に突撃してきた。俺はあまりの憲治の必死さと意味不明な声にビビって、手に持っていた本を床に落としてしまった。


パラリ‥


床に落とされた本は開いたまま落ちていて、集まってきた男子はその本に釘付けになった。


「な、なに‥これ‥」
「なにってエロ本だよ!友達に貸す約束してたんだよっ」


こうなるから内緒にしようとしてたのにー!と嘆く憲治の後ろでは、雑誌の回し読みが始まっていた。
俺はと言うと、バカなくらいに固まっていた。なんていうか、女の胸の形とかくらいは知ってた。こんな感じっていう。だけど、それをあんなふうに見たのは初めてだ。あんな、なんかいやらしい格好して。


「すっげーこれ!憲治ずりーぜ!俺らに隠してこんなの見てー!」
「お前らに見せたら返ってこねんだもん」


男子たちの笑い声を聞きながら、俺はなぜか最初に見たあのページの、顔は覚えてないけど、女の格好と胸だけが頭に張り付いて離れなくなってしまった。





「なに見てるのー?」
「うわあっ!!」


突然覗き込んできた女子に、憲治は必死に雑誌を隠す。憲治、今日は焦ってばっかだな。俺の雑誌なわけじゃないから笑って見てると、ドンッと俺の座っていた机が揺れた。


「あ、ごめん」
「おー」


振り返ると、先生の机の前の棚から先生に頼まれたのかファイルをとろうとしてる木下がいた。なかなか届かないらしく背伸びしている。木下は態度はでかいけど身長はチビだ。俺は、その後ろ姿がなんだかちょっと面白くてフッと笑うと声をかける。


「おいチビ」
「み、見てるなら助けてよっ」
「やだね。こっから見てる方が楽しいもん」
「‥性格わる!」


悪態をつきながらも手をのばして、なんとかファイルは取れたらしい。木下は疲れたような顔をしてから、俺の方を向いた。


「ねえ、さっきから男子たちなに騒いでんの?」
「えっ‥」


男子たちの群を見ながら木下が聞く。もう一度見上げる木下のなにも知らなそうな純粋な目に、俺はのまれてしまった。言えない。こいつにだけは、教えられない。


「さ、さあ?」
「さあって‥切原が知らないはずないじゃん」
「うるせーな、知らねーもんは知らねんだよ」
「怪しい‥」
「あ、怪しくねーよっ」


じーっと見つめてくる瞳に、俺の頭の中が見透かされそうで固まってしまう。フと、さっき見た雑誌のページが頭に浮かんでしまって顔を思い切りそらした。
こいつも女なんだ。こいつも制服の下は、さっきの雑誌の女みたいな体なのか?


「‥‥」
「‥‥」


一時停止した俺の目線は木下の胸で止まった。よく見れば、首もととか一つボタン開いててなんか‥やらしいかも。
ハッ!と気付くと、木下が自分の胸元を手で隠して真っ赤になっていた。


「へ、変態っ!今見てたでしょ!」
「なっ!ばっ、み、見てねー!」
「もうやだ!切原なんかやだ!」


ドンッ!と俺を押すと木下は走って教室を出てってしまった。俺はただ、ボーッとその場に立ち尽くしていた。変態って‥だって、だってだってさあ!仕方ねーじゃん!



木下になんかやだって言われた‥なんかってなんだよ。何気にかなりヘコむ。

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