小さな頃から毎日テニスをしていたせいか誰よりも負けず嫌いだった俺は、毎日必ずと言っていいほど誰かとなにかで喧嘩をしていた。給食の量が違うだとか、昼休みのボールと場所の取り合いだとか、牛乳早飲み競争で笑わかされて吹き出してキレたりだとか。くだらない、なんてことは思ったこともない。俺にとっては全部が真剣ですべてなんだ。
それは、小学校を卒業して中学生になっても変わらないままだ。





「ちょっと!男子!」


頭の後ろで物凄いドスのきいた声がして、俺はビクリと肩を震わせる。慌てて振り返ると数名の女子を引き連れた俺の最大の天敵がいた。


「ビビらすなよ、先生かと思ったじゃん」
「だったらちゃんと掃除してよ!今日あんたたちでしょ、雑巾の当番!」
「あーもー、うるっせーな!後でやるって」
「うそばっかり!そう言ってちゃんと掃除してるの見たことないもん!」


ギャンギャンとうるさく吠えるこの女は小学校の高学年から同じクラスの木下。クラスの学級委員長だかなんだか知らないけど、ちょっとさぼってただけでも先生みたいに説教してきやがるうざい奴。俺ばっか目の敵みたいに文句言って、今では先生なんかよりも俺の天敵みたいな存在だ。


「赤也、どーする?」
「掃除やんねーと女子にチクられるぜ?」


俺の後ろで俺の友達がヒソヒソと相談をする。チクられるのは確かに勘弁してほしい。

でも。


チラリ。


見上げた先の天敵木下の偉そうな態度が気にくわねー!ここで引き下がったら俺の負けみてえじゃん!負けは絶対に許されねーんだ。テニス部の掟だ。


「じゃあお前、雑巾とほうきかわれよ。そしたら掃除してやるから」
「はあ?なんであたしが雑巾なんかやんなきゃなんないの!切原の当番でしょ」
「じゃあやんねー!」
「あ、ちょ!切原あ!」


ガラッ!


後ろでギャーギャー叫ぶ木下の声ときゃあ!と叫ぶ黄色い声を無視して俺は窓から外へジャンプする。俺が逃げると俺の友達もみんな続いて逃げ出した。テニスのおかげで運動神経と逃げ足だけは天下一品の俺は土足のまま走る。途中で振り返ると木下の悔しそうな顔が見えて俺はざまあみろと言わんばかりに笑ってみせた。この俺が女子なんかに負けるわけねーんだよ!










「ギャハハ!さっきの女子の顔サイコー!」
「誰があいつらの言うこと聞くかっての!」


走って走って、教室から離れた俺らは二年の校舎の近くにある渡り廊下で騒いでいた。上手く逃げ切った俺たちは気分も最高によくて、テンションあがってはしゃぎすぎていた。


ドカッ!!


「ってえ」
「切原、ここでなにをしている?今は掃除の時間のはずだが」
「ゲッ!!」


やばい、と思った時には遅かった。第二のもっとおっかない天敵に見つかってしまった。渋い顔で見下ろす一つ年上の真田先輩の顔は、中学生には見えないほどに恐ろしい。ていうか、多分中学生じゃない。


「切原、まさか掃除をさぼっているのではないだろうな?」
「う、は‥はい。‥さ、さぼってます‥」
「馬鹿者があー!!!」
「ギャーッ!!!」



真田先輩に弱い俺は、バカ正直に白状してしまった。さぼるなんてことは許されないテニス部の掟を破ったことで、真田先輩に木下なんかよりもっと恐ろしい説教をくらった。もうヘトヘトだ。廊下に正座させられて俺たちは今まで感じたことのないほどの恐怖を味わった。真田先輩の拳骨はまじで痛い。絶対細胞死んだ。



散々怒鳴り散らした真田先輩は「しばらく反省していろ!」と言って正座したままの俺たちを置いて教室へ行ってしまった。


「お前の先輩、まじで怖えな‥」
「‥だろ?あれで二年なんて思えねーよ。三年にも見えないけど」


ハア、とため息をつく。さっきの真田先輩の怒鳴り声のせいで廊下を物珍しそうに見て行く野次馬がたくさんいる。うぜえ。
近くを通った先輩みたいな女子の「可愛い」と言う声が聞こえて俺はキッと睨み付けた。バカにすんな!睨んだ時に目が合うと笑われたので、ムカついて思い切り目をそらしてやった。



なにもかもが無知すぎた中一の春。

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