利央と話をしてから改めて今日一日の高瀬くんを見ると、落ち着きがないように思う。授業中も当てられた問題と違うとこを答えていたし、時間割を曜日間違ってたし、なによりぼんやりしていてため息ばかりだ。利央に詳しく聞いたわけではないけれど、高瀬くんがいつもと違うのは意識してみると一目瞭然だった。理由だとかは聞いていないけど、高瀬くんも気持ちに余裕がないことはわかる。
わたしは高瀬くんから目線を逸らして窓の外を見る。今日も一日野球日和だ。







「日直ー!資料運ぶから準備室に来いよー」


昼休み、担任にそう言われ今日がちょうど日直のわたしは慌てて立ち上がる。今日はわたしともう一人の日直の男子が風邪で休みのため、一人で資料を運ぶはめになる。気を使ってくれた美代が「手伝おうか?」と言ってくれた時、もう一人の日直が休みと気付いた担任が今一番選んでほしくない男の子の名前をあげた。


「高瀬ー!」
「あ、はいっ」
「お前今日ボケッとしてるから日直の手伝いしろ」
「日直?」
「今日男子が休みなんだよ。筋力つけると思って資料運び手伝ってやれ」担任と高瀬くんのやり取りを聞くにつれて、わたしの顔色は青くなっていく。野球部らしく「はいっ」と返事を返した高瀬くんが、ふう、とため息を一つついてわたしに振り返った。


「日直、だよな?」
「う、うん」
「準備室。ほら、早く行くぜ」
「あ、うん!」


高瀬くんの後ろをパタパタ走ってついていく。ガヤガヤ騒がしい休み時間の廊下を、わたしと高瀬くんは一言も喋らずに歩いていく。スタスタ、トボトボ。振り返りもせずにどんどん歩いて行く高瀬くんの背中をぼんやりと追いかける。このままわたしが追いつけなくなっていなくなっても、高瀬くんはきっと気付かないまま気にしないまま歩いて行っちゃうんだろうな。いつもは頼もしい素敵な背中が、今はなぜだか少し淋しい。わたし一体高瀬くんにどうしてほしいの、何を望んでいるの。自分で自分が分からない。


「おい!」


ビクッ!突然の声にビックリして立ち止まると、目の前にはわたしの目線に合わせるようにして少し屈んだ高瀬くんがいた。あれ?たった今さっきまでずっと先にいたのに。


「ボケッとすんなよ、大丈夫?」
「う、うん!大丈夫!」
「‥ならいいけど」


ぷいっ。またそっぽ向いて先を歩いていく。わたしはそんな高瀬くんの後ろ姿を見つめて、今度はポカポカ暖かい気持ちになる。チラリ、高瀬くんが時々わたしに気付かれないように振り返ってくれてる。なんだかくすぐったい。わたしはキュッと唇を結ぶと小走りで高瀬くんの隣りに駆け寄った。高瀬くんの歩幅についていくように、小走りで歩く。チラリ、隣りを歩く高瀬くんを見上げると、同じようにこちらを見下ろしていた高瀬くんと目が合って慌てて逸らされる。小走りだった歩幅が少しずつゆっくりなペースになる。わたしが隣りにいることを許してくれている。


「‥‥」
「‥‥」


会話は相変わらずないけれど、それだけでわたしは十分だ。気付けなかった高瀬くんの優しい部分に気付けたんだから。



資料室は相変わらずゴタゴタしていてどこに何があるのか分かりにくい。ダンボールを避けながら二年のスペースへ移動する。高瀬くんが避けて通った場所はわたしも歩きやすい。きっと高瀬くんが歩きやすいように道を作ってくれているんだ。無意識でもそうでなくても、なんだかありがとうを言いたい気分だ。何でもいいから会話したい。


「高瀬くん」
「‥なに?」
「ありがと」
「何だよ、いきなりっ」


カア!お礼を言うと高瀬くんの顔が赤くなる。わたしはそんな高瀬くんを見つめて赤くなる。なんだか恥ずかしい。せっかく話せたんだから、何か話題。
そこで今日の利央を思い出した。「準さん、どうしてる?」、利央も高瀬くんも大事な人だ。そんな二人が何かあるのなら助けになりたい。


「高瀬くん」
「ん?」
「昨日、さ。利央と何かあった?」


その瞬間、空気が固まった気がした。聞いてはいけないことをピンポイントで聞いてしまったような、そんな空気。それでも言ってしまったものは仕方ない。高瀬くんの返事を待つ。見上げる高瀬くんは、ただひたすらわたしを見つめていた。


「‥なんで?」
「え?」
「何でんなこと俺に聞くの」
「え、だって‥」
「俺の気持ち知ってて言ってんの?」
「き、もち‥?」


わたしが問い返したところで高瀬くんはぷいっと目を逸らして、次の授業で使うであろう資料を全部抱えて準備室を出ていってしまった。わたしは高瀬くんが出ていったドアを見つめて動けなかった。いろんなことが頭を回る。でもただ一つだけ。目を逸らした高瀬くんの傷付いたような横顔だけが、頭から離れなかった。

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