あまりにしょんぼりした利央が心配で、次の授業はサボってしまった。元気なのは見せかけだったようで、一度切れた利央の気持ちは晴れることはなかった。何を言ってあげたら安心するのか、全然浮かばない。利央がせっかくわたしを選んでそばにいるのに、わたし何もしてあげられないなんて。子供みたいに膝抱えて落ち込む利央の頭をゆっくり撫でてあげる。ぼんやりしていた利央が膝に頭をのっけたままこちらを向く。


「先輩」
「んー?」
「ありがと」


少しだけ笑った利央にわたしも笑って見せた。







教室に戻るとちょうど昼休みになった。利央のことを心配しながら教室を見渡した。高瀬くんはいない。食堂かな。「木下さん」、キョロキョロしていたわたしは名前を呼ばれて振り返った。振り返った先には田中さんが笑顔で立っていた。それだけなのにわたしは変にドキドキする。苦手、かもしれない。田中さんはわたしの知らないわたしの何かまで見透かしてそうで。ちょっと怖い。


「ちょっといいかな」
「う、うん‥」
「やーだ!そんな不安そうな顔しないで、何もしないよ」
「あ、ははは」


バシッと肩を叩かれてよろけそうになる。見た目に似合わず意外と力持ちだな、痛い。
そのままついでにお弁当を持って屋上まで上がる。田中さんとお弁当食べるの初めてでちょっとだけ緊張する。日陰を探して座るとお弁当を広げた。


「ね、利央と仲良いの?」
「へっ?」


さっきの出来事もあって、思わずわたしはドキッとする。わたしの返事を待つようにジーッと見つめる田中さん。仲‥はいいと思う、けど。ただ、仲良いの?って聞かれても。それはわたしだけの問題じゃないし。とりあえず、利央は置いといてわたしの気持ちでいいのかな。


「仲は良い方と思うよ」
「だよね、さっきも二人でサボってたでしょ」
「うっ」


ばれてら。まあ当たり前か。隠すことでもないし、サボりは悪いことだけど別に何をしてたってわけでもないし。利央が心配だっただけで、わたしがビクビクする必要はない。胸を張って卵焼きを口に含む。


「利央と付き合ってるの?」
「ぶふぉっ」


あわわわわ!慌ててお茶で流し込む。田中さんは笑いを堪えながら「ごめんね」、とティッシュを取り出す。鼻が痛い。卵焼き入った。
そういえば、田中さんは利央を知ってるんだろうか。高瀬くん繋がりでならわからなくもないけど。利央は人懐っこいし。でも、名前で呼ぶくらいだから知り合い以上だとは思うけど。考え事をしているわたしに気付いたのか、田中さんは「あ、」と声をあげた。


「わたしは野球部キャプテンのいとこなんだ」
「そ、そうなの?」


そっか、それで高瀬くんとも利央とも仲良いんだ。わたしはホッとすると田中さんの質問に答える。


「ただの後輩だよ」
「なあんだー」
「うん」
「教室飛び出して戻ってこないから愛の逃避行したのかと思って」
「ぷっ!なにそれ!」
「あは!木下さん初めて笑った!」
「!」


バッと口元を隠すと田中さんはもっと笑う。誤解してたかも。高瀬くんのこともあって田中さんのことなんとなく苦手意識を持ってたけど、話してみるとみんなと変わらない普通の女の子だ。楽しそうに笑う田中さんにつられて、わたしも一緒に笑ってしまった。
ひとしきり笑ってから、田中さんはフッと安心したようにわたしを見つめる。不思議に思ってそのまま見つめ返すと、思わぬことを言われた。


「高瀬くんがさ、あなたと利央が付き合ってるんじゃないかって言っててさ」
「‥え?」
「ないないって笑ってたら今日二人してサボったりするからビックリしちゃって」


あはは、なんて笑う田中さんを見つめる。
‥え、え?待って、頭が混乱してる。田中さん、今、高瀬くんって言ったよね?ちょっと待って、その高瀬くんってあの高瀬くんのこと?
ぐるぐるいろんなことが頭の中を回りながら、ポカーンと田中さんを見つめる。そんなわたしに気付いたのか田中さんも、不思議な顔をして見つめ返す。二人してしばらく固まっていると田中さんは、「あれ‥?」と呟いてあごに手をそえて考えだした。それから一つの答えが出たのか、おそるおそる、わたしを覗き込むと問いかける。


「‥利央のこと、好きとか?」
「えっ?や、まあ、好きだけど」
「その感じだと友達として、だよね?」
「も、もちろん」


「そうだよね‥」、ブツブツ何やら呟きながら考え事をする田中さんに、今度はわたしが問いかける。


「あの、さ」
「んー?」
「高瀬くん‥。田中さんにわたしのこと、話したりするの?」
「え?」
「や、だって。わたし高瀬くんとほとんど喋ったことないから‥何で、田中さんにそんな話するのかな」
「え、なんでって‥」


多分わたし今思い切り困った顔してると思う。でもそんなに上手に顔色隠せない。田中さんはキョトンとしたまま、またしても「あれ‥?」と考え出してしまった。そもそも田中さんがわたしを呼んだ目的って、利央と付き合ってるかどうかを確認するためってこと?んで、それは高瀬くんが話したからで?
それからは昼休みが終わるまでわたしはまた高瀬くんのことばかり考えさせられるはめになる。

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