教室に入る前に小さく深呼吸をする。昨日の高瀬くんとのやり取りを思い出しては、気持ちが俯いてしまう。わたし高瀬くんのムッとした顔ばっかり見てる気がする。それってわたしと話す内容や態度が高瀬くんはムッとさせちゃうことばかりだってことだ。誰だってムッとした顔を見るのは好きじゃない。だけど高瀬くんのはもっと、好き嫌いじゃなくて淋しくなる。スーハー。深呼吸をする。だってわたし見たことないんだもん、高瀬くんが笑ってるとこ。わたしに笑ってくれたとこ。







「せんぱぁーい!」


休み時間、廊下から元気な声が響いた。先輩、なんて。二年の教室で叫ばれても誰のことだか分からない。可愛い後輩だな、なんて廊下に視線をやるとこちらにブンブン両手を振り回す利央がいた。ちょっ!ギョッとしてキョロキョロ回りを見回すが、どこを見てもわたしに視線が集まっていた。


「もー先輩また無視しようとす‥」
「はいはぁい!」
「ぐえっ」


これ以上利央が何か口にする前に首根っこ掴んでダッシュで教室から離れる。後ろで利央が何か言ってる声が聞こえたが、聞こえないふりをした。
そのまま静かな階段まで来た。ダッシュしたせいで上がる息をととのえる。利央は引っ張られたせいで乱れた制服を元に戻す。


「で、どしたの?」
「へっ?」
「へ、じゃなくて!教室に来て、何かあったの?」
「ああ!いやあ、たまたま前通ったんで呼んでみただけだったのに、先輩いきなり走り出すからぁ」
「は」
「いや、だからぁ」


わたしは利央の能天気な答えに脱力した。ほんとにこいつは‥!あんなに全力でダッシュして損した。はあ、疲れた。ため息をつくわたしを無視してまたしても利央が甘えだす。後ろからのしかかるとグデーッと背中に張り付く。もうっ、だから重たいんだってばあ!でもゴロゴロ犬みたいに擦り寄る利央は可愛くて、強くは言えない。


「りーおー重い」
「やだぁ」
「もうっ」


これだから許してしまう。甘えられると弱いなあ。グデーッとしたままの利央に仕方なく付き合う。いつもより甘えん坊だなあ。部活でなんかあったかな。グデーッとしたままの腕をポンポンと叩く。
そのまま大人しくしていると、聞いたことのない声が利央を呼んだ。


「お前何やってんの」
「うっ。‥慎吾さん」
「へー。お前彼女いたのか」


ニヤニヤしながらこちらを見る男の子。見たことない、三年生かな。野球部の先輩?そんなことを考えていると、ハッと目の前の先輩の言った言葉を思い出す。


「ち、違います!彼女じゃないです!」
「おっと、じゃあ何やってんのよ」


何って‥別に何もしてないんだけどな。意味が分からずとりあえず睨むように見つめる。慎吾さんと呼ばれた男の子はそんなわたしを見ると、フッと笑って両手を上げて降参ポーズをとって見せた。そのまま利央の頭をくしゃっと少し乱暴に撫でると「甘えるのもいいけど、ほどほどにな」、とだけ言い残して歩いていった。
わけが分からず頭にはてなを飛ばしていると、子供扱いが不服なのか利央が頭をかきながらわたしから離れる。ムッとしたまま目を逸らすと消えそうな声で利央が呟く。


「今日、準さん‥どうしてる?」


準さん?って‥。昨日の利央が高瀬くんを呼んでいた名前を思い出す。高瀬くんか。どうしてるって、なんでそんなこと聞くんだろう。いつも通りにしか見えなかったけど。不安そうな顔で見つめる利央にとりあえず変わりないことを伝える。そっか、としょんぼりする利央にわたしは昨日を思い出す。もしかして、喧嘩した?昨日の高瀬くんを思い出す。
「二人でイチャついてれば」。いつも通りだったんだけど、さっきの人も言ってたけどイチャついてるように見えるのかな。‥わたしと利央が?ありえなくて吹き出しそうになりながら、それでも高瀬くんの背中を思い出して胸が痛む。男の子と女の子の関係って難しい。

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