グラウンドに近付くたびに胸がむしょうに焼け付いた。ジリジリと足元から何かが競り上がってくる。まだ少し涼しいくらいの今日なのに、わたしの体は真夏みたいに熱くなっていた。こっそりと陰からグラウンドを見つめる。利央、利央、は。ふわふわのわんこを探しながら目線は違うとこばかりキョロキョロしてしまう。‥いない。高瀬くん、いないな。ドキドキしていた心臓が少しだけホッとして、少しだけガッカリした。会わなくてよかった、でも一目見たかった。マウンドに立つ高瀬くんは本当にかっこいいんだ。まっすぐな横顔がすごくかっこいいんだ。
そんなことを考えて、ハッとしてまた利央を探す。早く見つけて渡して帰らなきゃ。野球部の邪魔だけはしたくない。


「‥あ、れ」
「え?」
「何、してんの?」


背中から声が聞こえて振り返ると、そこには高瀬くんがいた。わたしはバンッと隠れていた倉庫に張り付いた。わわわ、一番見つかっちゃいけない人に見つかってしまった。どどどうしよう!ダラダラとひたすら冷や汗を流すわたしを高瀬くんは不思議そうな顔で見つめる。そんな顔で見つめないで、下さい。顔上げらんない。


「‥なあ」
「‥、」
「何してんの?」
「うっ」
「もしかして、見に‥」
「あっ!桜先輩!」


高瀬くんが何か言いかけたと同時に、高瀬くんの背中からひょっこり利央が飛び出した。利央のしまりのないヘラヘラ顔になぜだかすごくホッとした。わたしはここぞとばかりに高瀬くんとの気まずい雰囲気から逃げ出した。持ってきた資料を利央に手渡すと委員会で聞いた内容を軽く説明する。利央はわたしの話を真面目にうんうんと聞いてくれた。
一通り説明をしたあとで、ふいに視線を感じて見上げるとわたしと利央をジーッと真顔で見つめる高瀬くんがいた。わたしは反射的にビクッとする。


「あれ、準さん。そんなとこ突っ立って何してんすか」
「‥いや」
「てか、準さんと先輩って同じ学年?」


ドキッ。なんだか触れたらいけないところに触れられた気がして、わたしは利央からも高瀬くんからも目を逸らした。なんだろう、気まずい。
利央がわたしと高瀬くんの反応に頭にはてなを飛ばす。利央への用事は終わったし、もう戻ってもいいかな。とにかくここから逃げ出したい。


「‥知り合い?」


ぽつりと聞こえた声に顔を上げると、真剣な顔でこちらを見つめる高瀬くんがいた。知り合いって‥利央とってこと?わたしと利央は高瀬くんの言葉に顔を見合わせる。


「えっと、知り合いって言うか‥」
「委員会が一緒なんスよ!てか先輩、なんで無視するんすかあ!俺すげえ手振ってたのにぃ」
「ばか!授業中にあんたみたいにブンブンできるわけないでしょ!」
「ちぇー」
「あんたのせいでわたし怒られたんだからね!」
「それは先輩のせいでしょお」


可愛くない!ふんっなんてソッポ向く利央を睨んでいると、また高瀬くんの視線を感じた。利央はどれだけ会ってもどれだけ喋っても平気なのに、わたし高瀬くんだけどーしてダメなんだろう。喋ってもないのに、もう近くにいると気になって仕方ない。チラリ、高瀬くんに目線をやるとなんだかムスッとした顔の高瀬くんがいた。わたしはドキッとする。


「‥へー」


あからさまにつまらなさそうな返事をする高瀬くん。チラリ、とわたしを目線だけで見つめるとすぐにそっぽ向く。あれ、なんでそんな反応。高瀬くんの反応が気になって仕方ないのに、利央は利央でそんなことお構いなしに相変わらずわたしに懐いてくる。さっきまではただ高瀬くんの存在にドキドキしていたのに、今度は利央に対する高瀬くんの反応にドキドキする。


「せんぱーい!聞いてますぅ?」
「ぐえっ」
「!!」


キョロキョロするわたしに、利央が後ろからのしかかる。お、重い!どんだけでかいと思ってんだ!つぶれるー!
いつもの甘えん坊な利央のスキンシップなのでそれ自体には驚くことはないけれど、この子のでかさにはいつもビックリさせられる。いつも犬みたいにしっぽ振って懐いてくるのに、近寄るとやっぱり男の子なのかすごく大きく感じる。パタパタしっぽが見えそうな利央を背中に背負ったまま重さに堪えていると、目の前の高瀬くんがわたしと利央を置いてスタスタ歩き出した。


「あ、ちょっと」
「準さーん、ちょっと待って下さいよぉー」


慌てて高瀬くんの後ろを追いかけようとする利央に、高瀬くんは振り向くと相変わらずムスッとした顔でわたしを見る。


「二人でイチャついてれば」


投げ捨てるようにそれだけ言うと、高瀬くんは今度は振り返らずにスタスタと歩いて行ってしまった。「イチャついてればって‥」、そんなんじゃないのに、困ったようにわたしを見る利央にわたしも困ったように見上げた。

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